Cafe BEasT BOOK
□しあわせの小箱
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「あの…」
「こ、これくらいの小さい箱で、水色の包装紙に銀のリボンが掛かってるんですけど…」
「ですから…」
「あぁっ!やっぱりここじゃないんだ!どうしよう、どこで落したんだろう…電車かな…もしくはお店においてきちゃった…」
実は鞄の中に入ってる?!
「あ。」
中学生は勢いよく鞄をさかさまにした。
教科書や筆箱、ポーチ、財布といろいろなものが飛び出し、店内を転がった。
「やっぱり無い〜〜〜!!!」
そのまま泣き出してしまった。
あまりの出来事に全員が何も言えなかった。
「…落ち着いた?」
契が特製のハーブティーを置く。
「はい…」
散らばった荷物を祈とまことがしている間に、彼女が泣きやむまで梯が背中をさすっていた。
そして目の前にいるのは音である。
「とっても美味しいコーヒーがあるんだけど、コーヒーよりこっちのほうがいいと思ってね。」
このハーブティーは興奮を抑える作用があるから。
「ありがとうございます…」
彼女はカップを両手で持つと、一口飲みこんだ。
そして大きく深呼吸すると、しゃべりだした。
「あの箱は、お姉ちゃんからもらったものなんです。昨日突然くれて…中身を開けようとしたら、"今はまだだめよ"って言われて。"時が来たら開けなさい"って。漫画みたいな話ですよね。」
少し俯き、続ける。
「お姉ちゃん大真面目に"その時が来たらわかる"って言うんです。現に、無理に開けようとしても開かなくて…それで今日、お昼休みに友達とここに来たんです。その時その話をしてて、学校に戻って確かめてみたら」
「なかったのね。」
小さく頷くと、嗚咽交じりに続けた。
「"時はいつ来るかわからないから、絶対に肌身離さず持ってて"って言ったのを思い出して、怖くなって…」
あ。
やばい。
藍と音の読み通り、彼女の目から再び涙がこぼれだした。
「どうしよう…どうしよう…!」
「だ、大丈夫だよ!そんな…すぐ見つかるから!」
「そんなこと!」
机の上に水色の小箱が現れた。
「…え?」
横に祈が立っていた。
「僕は、あなたのテーブルを担当していた祈と申します。返すのが遅くなって申し訳ありませんでした。」
ゆっくり深々とお辞儀をした。
「…いいえ…」
あったならいいんです…
「ありがとうございました!本当に!」
「あ、いや…」
僕は…別に…
…。
「おーっと!そろそろ夜の開店準備しないとまずいなー。」
神谷が立ち上がり、皇に目配せをする。
「そうですね。夜しかいらっしゃらないお客様もいますし…」
藍につま先で合図を送る。
「まったくだな!また話がしたくなったらいつでも来るといい。そこのウェイターより、良い接客を提供することを誓おう。」
ちょいっと契をつつく。
「俺も仕込みがあるし。今日の夜のメインはなんだったっけ?」
すかさず梯が出る。
「確かムニエルじゃなかったかな。あれ時間かかるし、僕も手伝わなきゃね。あ、音さん。今日は何かテーブルの飾り付け変えてみませんか?」
「丸テーブルに花置いてみる」
「あ、いいねぇまこと!さー!準備しよう。」
「というわけで。」
祈が店の外までお送りいたします。
オーナーがしめた。
「突然現れてわめいてすませんでした…」
「いえ、気にしないでください。」
「あの…」
また来てもいいでしょうか…?
「…え?」
「やはり…お邪魔ですよね…?」
「いえ!そんな!!」
「よかった!」
ここのお店の雰囲気大好きなんです。
皆さん素敵なウェイターさんばかりですし。
さっきのハーブティーもとても美味しかったです。
ありがとうございました。
「あ…こ、こちらこそ…」
では、失礼します。
本当にありがとうございました。
駅に向かって歩いて行く彼女の後姿に、「またのご来店お待ちしております!」と大きくお辞儀をした。