Cafe BEasT BOOK

□堪えきれない愛しさは
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堪え切れない愛しさは





今日は梯がいない。

なぜかというと…
僕も詳しいことはよくわからない。

ただ、梯が「ちょっと神谷さんに呼ばれたから、行ってくるね。」と微笑んでから、1日が経っただけ。

オーナーから何か深刻な呼び出しがある時は、神谷さんと呼ぶ。
だから良くないことなのは確かだ。

まぁ。
理由はどうだっていい。

今日は梯がいなかった。

「どうした、祈。元気ないな。」
「梯がオーナーに呼ばれたから寂しいんだろ。」
「うるさいですよ、藍さん。」

昨日の接客はどうにかなってたみたいだけど、
今日もどうにかできる自信はない。
早退した方がいいのかな…

「…なんだあいつ。」
「恋煩いの乙女みたいだな。」

契と藍さんのやじもどうでもいい。

腰に一応携帯が入っているけど、
仕事の時間に連絡がくるはずもないし、
なにより昨日から連絡がなかった。
だから

今日も来るはずないよね…

僕はモップの上に顎をのせ、特に何をするでもなくぼーっとしていた。



「おい。」

誰かが呼んだ。

「おい。祈。」

名前も呼ばれた。

「おい。祈。お前携帯をホールに持ち込むなと言っただろう」

…皇さんだった。
僕の携帯が、しなやかな指につままれている。

「すいません…」

「梯がいないだけでそんなに腑抜けになるのか。」

帰ってもいいんだぞ。

その口調は怒っているという感じではなく、
風邪をひいた子供に早退を勧めるあの感じ。
でも帰ったところで梯はいない。

「いや…大丈夫で」

視界の端に光った携帯の未読メールのランプ。
僕はその色が確かに赤く光るのを見た。

赤は梯のメール。

「ごめん、皇さん。仕舞ってきます。」

「あ、おい。祈!」

僕は皇さんの手から携帯をひったくると、スタッフルームへと逃げ込んだ。


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