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□拍手SS トート閣下と喫茶店
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 〜トート閣下とCafe BEasT〜



寒い夜だった。

手はかじかみ、鼻はじんじんと痛く、震えが止まらない。

だが男はそんなことにお構いなく、しっかりとした足取りで歩いていた。

寒さなど微塵も感じないかのように。

夜の闇に反するように輝く銀髪を、風に靡かせて向かっている先は、部下の一人が絶賛する喫茶店だった。

"一度行ってみて下さいよ。すっごく良いお店ですから!"

部下は楽しそうに言った。

"……お前はこの俺に働けと言うくせに、一体いつ行った?"

男が少し苛ついた口調で言うと、部下の笑顔が引き攣った。

"いや…その……"

"つまり、だ。"

それは私が『ここ』を1日留守にしても構わない、ということだな?

"え…っと、そんなつもりは…"

"そうか。ならば『名前』と引き換えのつもりだな?"

"いや!あの……"

"行っていいんだよな?喫茶店。"

部下は男の目力に気圧されると、しぶしぶ外出を認めた。

あとで困るのは閣下なんですからね!

部下は小さく一人ごちると自室へ向かった。



「…寒気がする。」

「なんだ、風邪か?俺に移すなよ。」

「同僚に対する言葉かけがそれか。」

「きっと外気が漏れてきてるんですよ。暖房の温度あげましょうか?」

「いや、いい。梯。大丈夫だ。」

この阿保にお前くらいの優しさがあればと思うよ…

「なんか言ったか、皇。」

「いや。」

Cafe BEasTはいつもより早く営業を切り上げようと、店じまいに取り掛かろうとしていた。

各々が必要な作業を行い、厨房も片付けを始めた。

「祈ぃくん、今日の夕飯どうしようか?」

「契さんに言って余った材料もらっていこうよ。」

確かお昼のまかないの材料とかが…




カランカラン




全員の帰宅へのわくわくした気持ちを裏切り、新たな客が入店してきた。

ワインレッドのコートに銀の髪。
死人のように白い肌。
色素の薄い碧の目。

「…まだ営業時間だろうか?」

男は帽子を脱ぐと、そう尋ねた。

「えぇ、まだ営業していますよ。ご案内致します。」
藍が持ち前の営業スマイルを繰り出し、男を席へと連れていく。


「…音。」

「…なに?まこと。」

「今の人さぁ…」

すっごい目立つ格好だよね…?


まことの呟きに、フロアの全員が勢いよく頷いた。




→2に続く


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