main

□頂点という名の孤独
1ページ/7ページ




吹雪が吹きすさぶ雪山、シロガネ


この山は悪天候に加え、レベルが高いポケモンが大量に住まう場所


トレーナー達からは、通称『魔窟』として恐れられ、普通なら登頂しようなどと言う人間はまずいない


だがその魔窟の頂上には、ある一人の男が佇んでいた


その男は無言でその場に佇み、その鋭い相貌は、山の登山口を捉えていた


男は背が高く、175といった所か。その顔は幼さを含むものの、立派な精悍な顔立ちをしている


しかし、その肩にはなぜか一匹のピカチュウがヒョコっと顔を覗かせていた




『ピカピ、ピカッ(レッド、どうしたの?)』


「・・・・」


『ピカピッ!(レッド!)』


「んっ・・・ああ、いや・・・」



そのレッドと呼ばれた青年はピカチュウの呼びかけに答える。そしてその頭をガシガシと撫でてあげながら、再び登山口にその視線を戻す



「ちょっと・・・色々思い出してね・・・」



レッドはそういうと、昔の記憶を辿る


自信が10歳になり、トレーナーになった日のことを


そして、チャンピオンになった日のことを・・・









3日前


「へェ、アイツそんなに喜んでたの?」


『ああ、今じゃ想像できねェだろうけどな』



ハナダジムのバトルステージ


そしてそのハナダジムのジムリーダーカスミは、プールで構成されたステージに足をチャプチャプつけながら、ポケギアで通話をしていた



『あの日オレ達は、初めて自分のポケモンってのを持ったんだ。オレがイーブイでレッドがピカチュウ

でもアイツ喜びすぎて、まだなついてもいないピカチュウ撫でまわしてよ。いきなり電撃喰らってた』


「あははっ、ホントに?アイツも子供っぽい所あったのね」


『ああ。でも電撃喰らっても、アイツピカチュウ離さないでさ。涙目になりながらオレに、絶対負けない!って担架切りやがったんだぜ?』


「へェ・・・以外ね。私はグリーンの方が先にそういうこと言うのかと思ってた」




グリーンと呼ばれた通話相手は、ヘヘヘッと笑うと、オレもそう思ってたと続けた




『それからは、お互い競い合いの毎日だよ。なんせガキの頃からのライバルだかんな』


「ガキの頃からって・・・」


『ジャンケン、腕相撲、かけっこ、釣り大会、大食い大会・・・競い合うことはなんでもやった』


「アンタ達・・・ホント暇ねェ」




カスミは呆れながら、頭の中で想像してみた


小さな子供のレッドとグリーンがお互いの目をバチバチさせながら、何かにつけて勝負している光景・・・・なんとも微笑ましいというか・・・馬鹿らしいというか・・・


彼女はアハハハッと反応するしかなかった



『アイツがどのくらい強くなってるのか、どの程度ジムを制覇したのか、ポケモン達にいかに信頼されてるか・・・毎日負けないように、オレは必死だったよ』


「それで、バッタリ会ったら即バトルってわけ?」


『あったりめェだろ!トレーナー同士なんだから、バトルは当然だ!』




まったくこの二人は・・・もっと和やかに話をするとか、お茶をするとかあるだろうに・・・


まあ今の関係を見る限り、お互い今更そんなことは恥ずかしいのだろう


まったく男の子ってホントに不器用ね・・・




『・・・・勝てなかった』


「えっ・・・」


『アイツと旅先でバトルして・・・オレ一回も勝てなかったよ・・・』


「うそっ・・・」


『マジだよ』




私は知ってる。今やレッドは最強のトレーナーとして知られ、勝てる人なんてもう皆無だってことを


だけど、どんな人間だって完璧ってわけじゃない


人が成長するには、負けの経験もそれなりに多くなければならない


レッドもその例外ではない・・・かと思っていたが・・・



『でも今考えたら・・・勝てるわけねーよなァ・・・

アイツ、オレと勝負することなんかよりも、ポケモンと一緒に強くなることに夢中だったんだからさ

あの頃のオレ、アイツに負けないように必死だっただけだからな・・・』


「あっ・・・」



私はそこに、何かデジャブを感じた


私と同じだ、と・・・


私もジムリーダーとしてバトルに勝ち続けることだけに目を向けていた(7年ぶり!参照)


だけど、そんな私は彼・・・レッドに敗れた


そう、あの頃に私に、ポケモンと一緒に強くなることに目を向けていたレッドに勝てるはずなかったのだ




「・・・グリーンも私と同じね」


『ん?』


「ううん、なんでもない。それで?」


『ああ・・それでな・・・』







彼は何度レッドに挑んだろうか・・・


いくつものジムを制覇し、いくつもの強敵を打ち果たし、ポケモンと共にグリーンも成長した


だが、彼にはレッドがなによりのライバルだったのだ

故に、彼に勝つことのみに固執し続けた


だから、どんなにバトルで勝っても、どんなにジムを制覇しても、なんの感慨も湧かない


あるのはレッドを超える、それだけだった


だが、勝てない


どうしてもレッドに勝てない


なぜだ!なぜだ!!なぜだ!!!!


何度この問いを己の中に問うただろう


そしてグリーンはチャンピオンロードをも制覇した


最強と言われていた四天王の頂点、竜使いのワタルをも打ち果たして


だが、彼はそれでも嬉しくはなかった




『今オレは、全トレーナーの頂点にいる。アイツより強い!!強いのはこのオレだ!!!』




何度負かされようと、この最強の座だけは渡さないと、彼は誓った


彼は分かっていたのだ。この座にいれば、必ず奴がやってくると


そして来た・・・


奴・・・レッドは来たのだ




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ