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□不器用関係
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吾輩はピカチュウである
名前はまだない・・・というわけではない
なぜなら主人であるレッドが僕の名前を『ピカチュウ』と決めたからだ
僕の言った主人であるレッドは、誇らしいことに今やトレーナー達の間では伝説になっている、史上最強のトレーナーである
だがその伝説のトレーナーであるレッドは僕の目の前で
「・・・・はあ」
なぜかため息をついてしまっている
『レッド』
「・・・・はあ」
『レッド!』
「・・・・ああ・・・なんだピカチュウ?」
『どうしたの?』
「・・・・いや、別に」
ずっとこの調子である
まあ、いくら最強だ伝説だなんて騒がれてもまだ18歳。世間的には、まだ大人と呼ぶには若干早い歳だ
誰か相談できる人でもいればいいのだろうが、生憎ここは雪山シロガネの頂上。レッド以外には人間はいない
だが、僕を含めたレッドの手持ちポケモン達はその理由をなんとなく分かっていた
レッドがおかしくなったのは数日前、一人の少女がここにやってきてからだった(『頂点の孤独』参照)
そこではまあ色々あって、衝撃的な分かれもあったのだが・・・
間違いなくレッドのため息はその少女、カスミが絡んでおり
二人がお互いをどう想っているのかはポケモンの僕らから見てもスゴ〜〜〜〜ク分かりやすい
だが悲しいかな。レッドはトレーナーの頂点に君臨する男だが、同時に朴念仁の頂点に君臨できるほどの『超』朴念仁なのだ
そして彼の悩みの種であるカスミ。彼女も同じような匂いを感じる
このまま周囲の人間が放置していれば、二人は『どこのラブコメだよっ!』みたいなウジウジ青春恋愛物語に出てくる、思春期の男の子と女の子みたいに永久にくっつきそうでくっつかない関係になってしまうだろう
正直その結果は、レッドを主人として愛する僕としては非常に望ましくない。彼には幸せになってほしいのだ
『ねえレッド』
「ん・・・・?」
『カスミのジムに遊びに行こうよ』
「!!?//////」
僕がそういった瞬間、レッドは今まで見たことのないような顔をし、まるで顔から火が出たように真っ赤になってしまった。かなり面白い
無理もないか・・・レッド初めてカスミと会った時もこんな感じだったし・・・
ま、それを語るのはまた別の機会にしといて―――
『なに恥ずかしがってんのさ?カスミだって言ってたじゃないか。たまには会いに来い、って』
「そ、そりゃそうだけど・・・///」
『だったら会いに行かなきゃ。また引っ叩かれるよ?』
「・・・けど」
『ん?』
「アイツはその・・・・ちゃんと彼氏がいるらしい」
『―――――えっ』
数日前
レッドがグリーンとポケギアで話していた時のことだ
『そうかそうか、カスミがお前に会いにねェ・・・クックックッ』
「・・・おい」
『あ〜、悪かった悪かった。けどいいじゃねェか、これでいつでも会いに行ける』
「・・・・まあ、そうだけど////」
『早くしないと、カスミを誰かに取られちまう『えええええええええええええええええええ!!!!!?』』
「!!!?」
キ〜ン
レッドは突然聞こえてきたもう一つの大声に耳をやられ、とっさにポケギアを耳から離した
『な、なんだよコトネ!?さっきオレに負けたんだから、さっさと帰れよ!!』
『カスミさんが取られちゃうって、誰かカスミさんを狙ってるんですか!!?』
「っ・・・おいグリーン、誰だよ」
『悪い、ちょっとさっきまでバトルしてた挑戦者でよ』
『ちょっとそれ貸してください!!』
『うわっ、おい!?』
向こうから聞こえるガタガタという音と、やめろ、離せ!などの言い争う声。どうやらポケギアを奪い合っているようだ
ドカッ
『ぬおっ!!?』
『まったく、大人しく渡してください!』
しばらくして聞こえてきた少女の声。どうやらコトネとかいうグリーンの挑戦者のようだ
『いい?アナタがカスミさんをどう思ってるか知らないけどね。カスミ先輩はちゃんと彼氏さんがいるんだから、とっとと諦めることね!!』
「!?」
ブツッ
ポケギアから聞こえた怒声と、通話を切る音。そして今はツーッ、ツーッという音だけが、今聞いた事実に茫然としているレッドの耳元で静かに鳴っていた
一方その頃のトキワジム
「このドアホ!!」
「な、なんでですか!私はカスミ先輩を魔の手から守ろうと――!」
「今話してた相手はレッドで、カスミはもう「えええええええええええ!!!?」」
「っっ!!?――こ、今度はなんだよ!?」
「い、今の人、あのレッドさんだったんですか!?」
「あ、ああ・・・・」
「きゃ〜〜〜!!私レッドさんと話しちゃった〜〜!!!」
「お、おい・・・」
「やった〜〜!私もう死んでもいい〜〜〜!!!」
「お〜い、帰ってこ〜い・・・・・・・・・はぁ」
グリーンは頭を抱えながら、目の前で両手をあげてピョンピョンと跳ねているバカ娘を呆れた眼で見た
「どうすんだよもう・・・」
『・・・・・・』
「というわけです・・・」
僕は何とも言えず、再びため息をついている青年の姿を再び見ていた
カスミに彼氏が?
まあ確かに、カスミも年頃の女の子なんだし、彼氏がいてもおかしくはないが・・・だったらこの間の行動はなんなんだ?
普通恋人がしっかりいる人間が、他の人にキスなんてするか!?(前回は口ではなくまぶただったが・・・)
それに前に会った時、そんなそぶりはなかったし・・・どう考えても不審な点が多い
―これはなにかある!―
『レッド』
「・・・なに?」
『いや、そんなすげ〜暗い目で見ないでよ』
「ああ・・・ごめん」
『レッド、キミはカスミのこと好きじゃないの?』
「!?////」
『どうなの?』
「そりゃあ・・・///」
『ハッキリしなさい!!』
「・・・・すき、です///」
『よし、だったら善は急げだ』
僕はレッドの本心を聞き出すと、彼の服を掴みながらよじよじと腰のモンスターボールホルスターの部分まで降りる
そうして右手でリザードンのモンスターボールのボタンをポチッと押した
すると、モンスターボールから光が発生し、その光は地面に降り立ちリザードンを形作ると、その姿を完全なリザードンへと変貌させた
『話は聞かせていただきました!お二人とも、早く私の背中に!!』
『よし、いい気合いだリザードン!』
僕は瞬時にリザードンの背中へ乗り、レッドへ早く乗るように促す
『ほらレッド、早く乗って!』
「な、なんなんだよお前ら・・・」
『うっさい!ウジウジしてないで早く乗る!』
「でも・・・」
『ああもうじれったいっっ!!リザードン!』
『アイサー!』
「へっ・・・うわあ!!!?」
僕の命令と共に軍人的な返事をしたリザードンはレッドの首の服を口で掴むと、彼を高々と放り投げ、強制的に自分の背中へと着地させた
これで準備完了!
『いけェリザードン!マッハ25だ!』
『さすがにそれは無理だけど頑張ります!!無限の彼方へ、さあ行くぞおおおぉぉぉぉ!!!』
「うわああああああああ!!!それはバ○ライトイヤーだあああぁぁぁぁ・・・・」
リザードンが飛び立った後シロガネ頂上に残るのは、恋する青年の悲痛な叫び声のこだまだけ
空を見上げると、天高く太陽がその行く末を見守っていた
上空120M
何故だか知らないが、オレはリザードンの背中に乗りハナダジムへと向かっていた
オレにはそもそもハナダジムへ行こうなんて気はこれっぽッちもない
だがこういう事態になっているのは、オレが乗っているリザードンと、目の前の黄色い悪魔のせいだった
『どうしたのレッド?元気ないね?』
「・・・・そりゃそうだろ・・・こんな無理やり連れて行こうとするなんて・・・」
『何言ってるんですか〜。行動しなきゃなにも始まりませんよ』
『そうそう♪』
「お前ら・・・」
自分のポケモンながら頭が痛くなってくる。なんでこんなませた性格になってしまったのだろうか・・・
しかも、今回はいっそうにタチが悪い
マズイ・・・このままではハナダジムに着いてアイツと鉢合わせになる
いや、別にアイツのことが嫌いというわけじゃない・・・ただ今は・・・
――後にオレは、この時考え込んでしまったことを後悔した――
『ピカチュウさん、この辺りですかね?』
『そうだね、じゃあそろそろ――』
「―――へっ?」
オレが物思いにふけっているその時、妙な掛け声が聞こえて来て気がついたら―――
『投下〜〜〜!』
「!?」
急に揺れる視界、上下さかさまになる世界
気がつけばオレは、突如一回転したリザードンの体にしがみつけず、空中にその身を投げ出していた
『時間になったら迎えに来ますので〜!』
『レッド〜、頑張れよ〜♪』
混乱している頭に、あのアホ共の声が響き渡る
飛び去るリザードンに向かって伸びるオレの腕は、無情にもただ空を切るだけ
オレの視界に広がる逆さまになった空
―ああ、オレはここで死ぬのか・・・―
叫び声すらあげる暇もなく、オレは自信の死を覚悟し、同時に今までの人生を振り返ろうとする。いわゆる走馬灯だ
最後くらい、色々な人との思い出を胸に抱きながら死にグハアッ!!?
突如オレの背中に走った衝撃
もう落ちたのか!?だが思ったほどのモノでもない・・・そもそも生きている
地面に突っ伏したまま手を動かし、足を動かす
五体満足・・・どうやら幽霊にはなっていないらしい
そう、レッド自身は急に落とされたので自体が呑み込めなかったようだが、実はレッドが考え事をしている間に、リザードンとピカチュウはこっそりと上空8M程度に下降しその上で落としたのだ
まあどちらにせよ、急に主人を上空から落とすのはどうかと思うが・・・
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