そこには火村がいた。 「どうしたんや? こんな時間に……」 疲れ果てた様子の火村。訊かずとも大体の理由は判る。火村は靴を脱ぐなりリビングのソファにどさりと座った。 「事件でちょっとな。あちこち走り回って疲れた」 無造作に出した煙草に火を点け、ふぃーっと煙を吐いてから言う。火村の前に灰皿を置いてやった。本当に疲れ切っているようだ。 「コーヒー飲むか?」 「いや、家まで帰るのがきつくて寄ったんだ。朝まで寝かせてくれ……」 煙草をくわえたまま天井を仰ぐ。そうしてソファに身体を沈める火村を見ていると、何故か切ない気分になる。 「俺まだやる事あるから、君そのソファやなくて俺のベッドで寝ぇや」 火村が動く衣擦れの音がする。多分、私を見たんだろう。それでも私は彼を見ないように背を向けた。 「良いのか……?」 「えぇよ。ソファなんかで寝たら君の疲れかってとれへんやろ?」 私がそう言うと、火村は大きく息を吐いて灰皿に煙草を押し付ける。 「ありがとう。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうよ」 そう言って火村はベッドに向かう。その音を背中で聞きながら、彼の疲れが癒えるようにと願った。 |