空に関わるもの15題
□1:青い空を見上げて
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偶に来るとおもしろい変化がみられる。
それは本人たちも自覚のないことらしく、その色に完全に染まってからでは変わりようを実感できず、楽しめない。
だから自分はここを離れていることが多い訳だが―――。
「おや、知らない顔ですね」
それは予想通り。
久しぶりに関わってみると当然のように居座っている少年がいた。
なぜか瞳は後ろめたそうな光が色濃い。
それでも明るく振舞っているようだから、最低位の時期からよっぽど落ち着いた方なのだろう。
「紅槻っていうの。赤い色のクレナイに、簡単な方のケヤキって書くのよ。紅槻、彼は天狼。仲良くしてね」
遙はにっこりと、こっちにバリバリ敵意を向けている少年に微笑んだ。
なにが気に入らなかったのか、紅槻とやらは更に険を深くして眉間に皺まで寄せている。
「よろしく。しかし、紅に槻ですか……」
顎に手を当て、思案していた天狼は思いついたようににっこりと笑った。
「そのまま読むと、まるで、『くれないけやき』ですねぇ」
「煩い。初対面の奴に名前をどうこう言われる筋合いはねえ」
口に出されたその単語に紅槻は眉を吊り上げた。
そのまま無視されると思っていたが、からかってみると意外におもしろい。
「紅槻」
だが、たしなめる遙の声に気まずそうに押し黙る。
なるほど、この方の枷は遙ですか。
「…くれないけやき」
「黙れ!」
「すいません。間違えました。あ、か、つ、き」
「天狼。弄るの止めて」
「はいはい。すみません、遙。つい面白くて。まあ、新入りは虐められる…、ああいえ、ただの通過儀礼ですよ。ね?」
「俺に振るな!」
飄々と言ってのける彼に紅槻は早くもペースを握られている。
「全く、どの時代の、どこの通過儀礼だ。そんなん俺は知らない」
「おや。古今東西共通ですよ。ではまた今度『くれないけやき』」
「その名で呼ぶな!!」
「紅槻」
少年に向けた背から遙の声が聞こえる。
ここの第二の子供役といったところだろう。ああいった手合いは深く噛みつかれる前に退散したほうがいい。
天狼はふと息をつく。
いい傾向が続いているのだから、そろそろ自分の役目も終わりになる。
本来の目的を果たすためにも今の仕事を早々に終わらせた方がいいかもしれない。
だが、やはりその前に。
「あ、天ちゃん! わー、いつ帰ってたのー? 単独行動多すぎだと甲斐性無しの天ちゃんって呼んじゃうぞー」
手に一杯花を摘んだ少女が駆けてくる。そのまま天狼に突っ込んで腕をさらった。
「それは勘弁していただきたいですねぇ。僕だって考えがあるんですから」
「どーせロクな考えじゃないもんね。そのうち取り返しのつかないことになったって知ーらないっ」
「はいはい」
会う度図星を突いてくる少女に溜息をつくと、生返事をしながら頭を撫でる。
変化を見るのはやはり楽しい。自分の設定した目的を忘れてもいいと思えるまでに。
自分は遥か彼方に忘れてきたものを取り返しにいかなければならないけれど、
その前に、もう少し楽しんでいってもいいかもしれない。
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