BASARA

□SS
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《甘味の威力》

(※学パロ)


「毛利、消しゴム貸してくれよ」

「購買で買ってくれば良かろう」


前の席から突然かけられた声に対して、元就は顔も上げずに返事をした。
今読んでいる本は一度読んだものだったが顔を上げるのが何となく癪だった。


「今ちょこっとだけ使いてえんだよ」


親指と人差し指をCの形にして『ちょこっと』を表現しつつ元親は真っ直ぐ元就の方を見てくる。
面倒くさい男だ。


「そもそも先日貸した鉛筆すらまだ返しておらぬではないか」

「あれ?そうだっけ?」


こめかみにふっと青筋が浮いた。
貸してくれよ昼飯買ったら財布の中身すっからかんなんだと喚く元親に鉛筆を貸したのは先々週のことだった。
この男の、こういういい加減なところが嫌いなのだ。


「レンタルビデオであれば延滞金がかかる頃合いぞ」

「固えこと言うなって、じゃあ新しい鉛筆買って返すからよお」


屈託なく笑う顔に、何を言っても無駄かと諦めを深くする。
しかしだからと言って貸してやる義理はない。


「ならばますます購買に行って来い。そして鉛筆を返せ」

「んなもん明日でいいだろ明日で!
ほら、消しゴム貸してくれよ」


机を叩いて催促された。
もの凄くイラっとする。
しかしそれから良いことを思いついた。


「…ふん、貴様にはこれで十分ぞ」


内心笑いながらただあくまで無表情にそれを手の上に載せてやると面白いくらいに表情が変わった。


「なっ、テメェこれ消しカスじゃねえかよふざけんな!」

「消えれば良いであろう」

「確かに集めてこすれば消えるだろうけどよ、誰がこんなもん寄越せっつったよ!」


思った通りの反応だ。
ふふん、単純な奴め。


「元は消しゴムぞ。成分に変わりはあるまい」

「ぶっ飛ばすぞテメェ!」

「それが人に物を頼む態度か」


言えば途端に悔しそうに顔を歪めた。
何度もやっていることではあるがやはり言い負かすのは気持ちが良いものだ。


「〜〜っ、くそっ、アンタになんざ頼むんじゃなかったぜ」

「わかればそれでよい」


元就は満足気に言い放ってまた本に視線を戻そうとしたが、元親はすぐには向きを変えなかった。
まだ言いたいことがあるらしい。
往生際の悪い奴め。
だがぼそりと呟いた一言は元就のハートを一瞬にして撃ち抜いた。


「貸してくれたら、うちのじーちゃんの菓子棚から勝手に持って来た大福をアンタにも分けてやろうと思ったのにな」

「それを先に言わぬか!
ほら我の消しゴムぞ。ありがたく使うが良い」

「変わり身早過ぎんだろアンタ!」


それから勝手にがさごそと元親のカバンを漁り始めた元就が大福を見つけるのに大した時間はかからなかった。

そして大福を元親の分も含めて根こそぎ奪い取ったのは、言うまでもない。










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物に釣られる毛利とか。
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