BASARA

□SS
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《同窓会》

(※現代パロ)


高校の同窓会に来ていた。

探し人にはまだ会えていない。来るかどうかもわからない。ただ待つというのも暇なので、グラスの中の赤い液体を揺らしてそれを眺めたりしている。


「明智がそうやってると、ワインじゃなくて血みたいだよね」

「あ、それ言えてる」

「吸血鬼ですか私は」

「だってそれっぽいじゃん」

「なー」


元級友達のくだらない冗談に付き合っているうちにも夜は更けていく。
見ているだけというのも何なので口に含んでもみたがあまり味がしない。酒は弱い方だからそういう意味で味がすると思ったのだが、やはり考え事の影響は味覚に大きく作用するようだ。ただ頭の芯が熱っぽくなってきたからまるきり影響がなかった訳でもないらしい。

テーブルの上の料理はなかなかに美味しそうなものが揃っていた。レストランにはよく行くし自分でも作るから、良い料理と悪い料理くらいはすぐにわかる。
酒だけ飲んでいると酔いが早く回ってしまうから料理にも手を付けようと思ったが、こんな味がわからない状態で食べるのは料理に失礼だからやめることにした。
だからかグラスの中身が全部空になる頃には少し顔が火照ってきていて、慣れない酒など飲むものではないなと自嘲の笑みを零した。赤ワインの、色だけは本当に好きなのだが。


「ねえあれ斎藤さんじゃない?」

「綺麗ねー!
全然変わってないわ!」

「斎藤さん?誰だっけ」

「帰蝶ちゃんだよ!
いっつも下で呼んでたけど名字くらい覚えてなよ〜」


−−帰蝶。

その名前が聞こえた瞬間、勢いよく振り向いた。揺れた長い髪が一瞬だけ視界を塞ぐ。なにしろずっとずっと待っていた人間の名だ。酔いも醒めて、頭の奥まですっと冷えていった。ひょっとしたら勘違いかもしれないが。実際胸のあたりはまだ熱っぽさが残っている。

出来るだけ自然な動作で会場の入り口の方へと歩いていくと、彼女はすぐ目の前に現れた。大人へと成長を遂げた彼女の印象は昔より艶やかなものへと変わっていたが、瞳の優しさだけは変わらない。こちらに気付くと彼女は少しばかり微笑んだ。どうも忘れられてはいなかったらしい。


「久しぶりね、光秀」

「ええ、お久しぶりです」


会いたいと思い続けていた割に言葉が出ない。考えをまとめる時間はいくらでもあったのに。酒など飲んだのがいけなかったのか。それともこれが緊張というものなのか。


「どうしたの光秀、顔が赤いわよ?」


彼女の声にはっと我に返る。

「…先程ワインを少々飲みましたので」

「あら、大丈夫なの?」


心配そうな顔をされるが自分では顔の赤い理由の心当たりがもう一つあるから返答に困る。それから頬に触れてきた彼女の左手にふと目が行った。夜の外気に晒されたばかりでひんやりとしたその左手の薬指。酔いが今度こそ完全に醒めた気がした。


「結婚…なされたのですか」

「え…?
そうよ。でもどうしてわかったの?」

「指輪が…」


はまっていますから。

最後の部分は上手く声にならなかった。それをただの驚きと取った彼女は嬉しそうに笑いながら手を離して言った。


「よく気付いたわね。
そうよ、私の名字は今織田っていうの。
まだ慣れないのだけれど、これからはそちらで呼ばれることの方が多くなるのよね」

「…ご結婚おめでとうございます、帰蝶」

「ありがとう光秀。
あなたにそう言ってもらえて嬉しいわ」


幸せに包まれた笑顔のまま彼女は手を振って離れて行った。考えてみれば当然の話だ。あんなに綺麗で優しい女性がいつまでも独身でいるはずがない。それでも望みを持ち続けてしまったのは、それだけ想いが深かったということか。

ボーイに頼んで赤ワインを再びグラスに注いでもらった。甘くて苦くて喉が焼けるように熱くて、まるで今の気持ちのようだと思っていたらグラスの中に大きな波紋が立った。目から雫が落ちたらしい。

このまま全て熱くなってしまえと、血のように赤いそれを一気に飲み干した。







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赤ワインと明智。
史実で確かお酒に弱かった気がしたのですが、バサラの明智がお酒に弱かったらちょっぴりギャップ萌的な何かを感じます←
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