BASARA

□SS
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《ランチタイム》

(※大学生パロ)


「帰蝶」


後ろから声をかけられた。光秀はいつも後ろから声をかけてくる。
驚く顔を見せると楽しそうな顔をするから最近はあえて振り向かない。


「昼食、ご一緒にいかがですか」


手に持ったトレイには学食の天ぷらそば。
髪が天ぷらに触れそうで触れないのは揺れながら立っているからか。


「お一人でしょう?」

「まあ、そうだけれど」


肯定すれば嬉しそうな顔をした。
これで断ったらどんな顔をするのだろう。
案外さらっと去るのかもしれないがそれはそれで寂しい。


「あなたはお弁当ですか?」

「見ればわかるでしょう」


大きめの巾着を持ち上げて見せる。
弁当箱の形がくっきりと浮き出たそれは四角く変形していた。


「それもそうですね」


笑うとまた髪の毛が天ぷらに触れそうになった。





学生ホールの空いたテーブルに向かい合わせで座る。丁度混んでくる時間帯だから席が見つかったのは幸運だ。


「そのおかず、なんですか」


あまり音を立てずにそばを啜る光秀はやはり変わっている。
問われたおかずはだし巻き卵だった。
ちなみに手作り。


「美味しそうですね、それ」

「あげないわよ」

「交換ならどうですか」


言って光秀はまだ一切箸を付けていない海老天を一瞥した。


「美味しいですよ。
私は昨日もこれでした」


だし巻き卵一個と海老天。
釣り合わないような気がするのだが。


「いいの? それで」

「いいですよ」


おかず交換なんて子供の頃に戻ったみたいですね。
言われて確かにそうだと思った。
高校時代に仲の良い友人とおかず交換をしたことはあったが光秀としたのは小学校の遠足あたりが最後だ。


「ではいただきますね」


おもむろに箸が伸びてきた。
しかも速い。
気が付いたら弁当箱の中から消えていた。


「薄味……ですね」


飲み込んでしばらく経ってから言う。


「でもだしが染みてて美味しいです」

「そう」


褒められればそれなりに嬉しい。
光秀は味の評価が結構細かい。
一緒に外にご飯を食べに行くとそれがよくわかる。


「いつの間にか、お上手になったのですね」

「いつも作ってるもの」


ではどうぞ、と言って弁当箱の空いた部分に置かれた海老天は確かに衣がサクサクとしていて美味しかった。中身も普通より少し大きい。


「今度からお弁当やめて学食にしようかしら」


値段も安いし。

ふと心の声を零したらなぜかいきなり光秀の箸が止まった。


「駄目ですよ」

「どうして?」


訊けばそれは…と俯いた。
良くも悪くもズバズバ物を言う光秀が口籠もるのは珍しい。
しばらく見つめていると観念したのか口を開いた。


「またあなたの作ったおかずが食べたいからですよ」


なんだ、そんなことなのと笑ったら動揺した様子でそばを啜り始めた。

こんな感じだったらたまには光秀とお昼を食べるのも悪くないかもしれない。










‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

明智は当然好きな人の手料理が食べられるなら食べたい的な意味で言ったんですが帰蝶さんは普通に美味しかったからだと解釈してます。
そして書いてたら海老天食べたくなってきた……←
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