震えながら
□第一章
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ザリ、ザリ、ザリ
荒野を、進む。
荒れ果て、痩せた土地には何も生えぬ。
結局どこまでも続く地平線が広がるだけである。
それでも、右目に影を落とした少女は見えていた。
もう、それはずっとずっと前から。
いくら足を踏み出しても、見える景色は遠いまま。
蜃気楼だろうがなんだろうが、この赤い土ばかり広がる景色に、たった一つ希望を見出だしてくれるその、町並みが。
ACT.1
ルア「ああ、疲れた、もう一歩も歩けない。いや、歩きたくない。」
銀髪混じりの黒髪の少女は小さくため息をついた。
しかしそんな愚痴を零し続けて、もう十日も経つ。
結局彼女は自分のスタミナの多さに苦笑いを零すだけなのだ。
ルア「でもおかしいよなあ・・・。
何で前に居た町からも、ずっと前に居た町からも、同じ町並みが見えるんだか・・・。」
特に気にしてはいなかったその町並みであったが、流石に400km程も離れている筈の場所から、ずっと同じ景色が見えているというのはどう考えてもおかしかった。
ルア「ああー・・・。つまんなすぎて死んじゃうよお、何か面白い事無いかなァ。」
薄暗い荒野の中で、彼女はそう呟いた。
真横で死体を禿鷹が突いていようと、何の関係も無い。
彼女はこの何も無い景色にも、何か面白い物が隠されていると信じて疑わないのである。
全く、ポジティブ思考の境地だ。
ルア「・・・、・・・・・・つまらん。」
10日間何も食わず、水もままならないまま歩き続けて来た人間が言う様な言葉では無い。
余りの疲れに逆にハイになってしまったのか、はたま空腹自体に気付いていない程鈍いのか。
どちらにしろ少しおかしいこの女は、俯き、背を丸めて手をぶらぶらさせながら歩いていた為、目の前に急に現れた小さな少年に気付く事もなくぶつかるのだった。
「痛っ」
ルア「ん?あれ、君誰?」
「さっきから止まれって言ってんのに何で止まらないんだよ!」
ルア「え、そんな事言ってた?」
「言った!!!」
ボロボロの服を纏った少年は、地に尻餅を着いたまま怒鳴りかかるが、ルアはすまん、と一言言ってまた前へ足を出すのだが。
「ちょっと待てよっ!」
ルア「ん?」
「おれはフェルだ!」
ルア「あたしはルア。じゃあね。」
フェル「何で自己紹介しあってすぐ消えようとするんだよ!!」
ルア「え、ほら、あのお名前だけでも・・・とかって奴かなって。」
フェル「お前おれにぶつかっただけで何も良い事してないじゃないか!!」
くわっと口を大きく開く少年に、少し煩いと耳を塞いだものの、それもそうだと納得して笑った。
フェル「・・・・・・、やっぱりいいや。」
しかし少年はルアの両目を見た途端、怖気づいた様にそう言った。
ルアは不思議そうに少年の背に合わせてしゃがみ込むと、少年はもっと怯えた顔付きでルアの両目を交互に見た。
フェル「く、来るなっ!魔女だろお前!!」
ルア「・・・はァ?・・・あ、この目の事?」
フェル「喋るな!やだ、来るなァ!!」
いきなり拒絶しだす少年に、半ば呆れ、またかと笑いながらもいつも通りに魔女じゃないと訂正するが、目の色が違う=魔女という様な解釈を持つこの世界では、やはり訂正しようとも、拒絶される。
余りの少年の拒絶のしように頭を掻きながら、どうしたものかと笑うが、いつの間にか少年を岩場に追い込んで居た様で、ルアは苦笑いを零した。
フェル「やだ・・・ごめんなさい・・・何も、しないで・・・!!」
ルア「・・・何もしないよ、大丈夫だから。」
優しく頭を撫でてやり、出来る限り優しく声をかければ、少年はビクッと肩を震わせた。
ルア「あたしは、人間だよ。
魔法だって、空を飛ぶ事も出来ないよ。
フェル、あんたが怖がる理由がわからないよ。」
フェル「・・・・・・・・・。」
ルア「人はあたしを怖がって殺そうとする。
あんたには、あたしの気持ちなんて分からないだろうさ。
そうだよ、あたしは目の色が違う。
それでも、あたしは人間だ。
分かったら、もう呼び止めるんじゃないよ、あたしは腹ぺこなんだ。」
岩場に追い詰めていた少年に、そう釘をさしてそこを去ろうと背中を向け、足を進めた。
しかし、次の瞬間左足が重くなった。
フェル「・・・婆ちゃんを、助けて、下さい・・・。」
離れぬ様にがしっとルアの足にしがみつく少年は、鼻声でそう言った。
だから、魔女じゃないし医者でもないのに
ルアは、ため息を吐くが、握りしめられた拳を見て、仕方なく頷いた。
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