みりあん!(仮)

□T はじまり
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長旅で汚れた一通の紹介書を手に、僕は溜息をついた。

8月のドイツは果たしてこんなに暑かっただろうか。新しく仕立てた絹のシャツが背中に張り付く。パリの最後の思い出だ。
おぼろげな記憶をたぐり寄せながら、僕は遠ざかっていく馬車の影を見つめていた。



「ミリアン!」

馬車から下ろした大きな荷物に囲まれ、荘厳な作りの門の前で途方に暮れていると、遠くから懐かしい声が聞こえた。

肩に掛けた大きなバッグを地面に置き、声が聞こえる方へ振り向く。



5年ぶりに会うアランは、ほとんど何も変わっていなかった。

キャラメル色の柔らかそうな猫っ毛、日焼けした頬、長い手足。

人懐こい笑顔で僕のところへ駆け寄り、勢い任せに抱き着いてきた。

「元気だった?」

5年前は僕の方が背が高かったのに、今では僕の方が小さい。

バランスを崩しかけた僕にお構いなしで、アランは嬉しそうに笑っている。

「元気だよ」

「それはよかった」


アランは僕の両肩に手を寄せ、左右の頬についばむような軽いキスを落とした。

???

その慣れない風習に、僕は戸惑う。


「ごめんごめん、フランスではキス2回だったね」

そういうことじゃないんだけど…

答えようと口を開いたら、アランは二回頬にキスをし直してきた。

僕は焦って顔が真っ赤になるのを感じる。

「あれ、アラン…?」


「ごめん、僕が住んでた場所ではこういう習慣がなくて…」


アランの好意を無下にできず、僕はなんとか説明すると、俯いてしまった。
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