お題
□保護者ですから
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《ノマシカスレナル》
―せんせい!シリーズより―
「シッカマールくんっ!あっそびーましょー!」
「…ヤーダーヨー」
ズシッと重みを感じて目を開ければ、ドアップで憎たらしい美形がいた。
「まーまーそう言わず!若者がいつまでも寝てばっかじゃ腐っちまうぞ!」
「…てゆーか寝てる人の上乗るとかオレの部屋にいるとかそもそも教師が生徒遊び誘うとか諸々聞いてもいいですかね?」
「うん却下だ!」
めんどくせぇと笑って言うこいつに殺意しか生まれない。
貴重な休み、貴重な睡眠を…。
「さぁ、行こうじゃないかシカマルくん!」
「拒否権は、」
「あるわけないだろ」
「…ですよね」
「じゃー下で待ってるなー。早く来いよー」
爽やかな笑顔で部屋から出ていった蒼綺を見送って、はあ…とため息を吐き出した。
外は清々しい程の晴天、お出かけ日和ってかコノヤロウ。
下の階で親父と騒ぐあいつの声を聞いて、逃げられないと腹をくくった。
「で?どこ行くんすか蒼綺センセー」
「んー?ひ、み、つ」
前を行く蒼綺に尋ねるも曖昧に返される。
絶対説明するのがめんどくせぇだけで、秘密なんて可愛いげのあるもんじゃねえ。
「はーい着きましたよシカマルくん!」
「此処って…」
「新しく出来た甘味処でーす!」
じゃじゃーんと両手を広げて見せる先には真新しい一軒の店。
確か甘栗甘の姉妹店が出来たってチョウジが言ってたな。
此処のことか。
「って、すっげぇ並んでんじゃねぇか」
最近オープンしたばかりとあって店の前には長蛇の列。
正直並びたくねえ。
「…オレ、帰るわ」
「ちょーっとシカマルくん、帰るとかなにここまで来といて」
「来たくて来たわけじゃねえよ。つーか一人で来れただろ。なんでわざわざオレ誘ったんだよ」
「んなこと言うなってー。オレだって並びたくないんだから」
「…なるほどな、代わりにオレに並ばせようって魂胆か」
生徒を虫けらのように扱うこいつならありえる。
「はあ?オレがそんなひでぇことすると思うか?」
「ああ思うね」
「ひっで!なんだよシカマル、今日はやけにツンツンしてんなぁ」
「せっかくの休日を台無しにされてっからな」
憮然とした態度でそう言えば、蒼綺は眉間にシワを寄せて歯切れ悪く、うぅーと唸った。
「あー、うん、そうなんだけどね、」
「…なんだよ?」
「いや…、並ぶの面倒なオレでも、シカマルとなら並んでもいいかなーって、思ったからさ…。家族団欒ジャマしてごめんな」
せっかくシカクさんも休みだったのにな、って申し訳なさそうに言う蒼綺に思考が追い付かない。
は……?
オレとなら並べるって?
なんでだよ。
つーかコイツ…家族が絡んでくると急に真面目っつーか…。
なんだよその顔はよ。
「ったく…めんどくせぇ」
「シカマル…?」
「ほら、並ぶんだろ?さっさと来いよ」
思わず出たため息はそのままに列の最後尾へと並ぶ。
キョトンとした蒼綺の間抜け面は、次にはパッと花が咲いた。
「さっすがシカ!モテないけど優しいよな!」
「一言余計だクソ教師」
そうして約一時間程並んだ甘味処で待ってましたとばかりに食べまくった蒼綺が、最終的に財布を忘れたとふざけたことをぬかしやがったので不本意ながら全額オレが払う羽目になった。
「あー食った食った!」
「人の金でな」
「なんだよー、後で返すって」
「当たり前だ!」
帰り道、蒼綺は満足そうにいい笑顔を見せるが、ふとその足が止まった。
「シカマル…」
「…何だよ、もう何処にも寄らねぇぞ」
「それは分かってる、けど…」
俯く蒼綺に自然と眉間が寄るのは仕方がないだろう。
きっとろくなこと言わない。
「シカ、」
「……」
「シカ、お腹いっぱいで歩けない…」
ほらな!
「いい大人が何ほざいてんだ!」
「おんぶー」
「あ・る・け!!」
面倒くさいことにポテポテ歩く蒼綺の背中を押したり腕を引っ張ったり、悪戦苦闘を強いられてようやっと帰宅出来た。
ぐったりした体を重力に逆らうことなく縁側で横たえれば親父と腐った教師の会話が遠くで聞こえる。
「今日はありがとな蒼綺、馬鹿息子の面倒みてもらってよ」
「まぁ保護者ですから!」
ああ!?どっちが!!
激しくツッコミたい気持ちとは裏腹に、疲れ切った体は静かに瞼を落としたのだった。
END.