庭球

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〈ッ…伸二!〉

〈三奈江!?どうして病院に……〉

〈全部聞いたの!貴方が突然変わってしまったワケを!〉

〈!!!〉

〈でも…でも私は……、貴方の傍にいたい……!!〉




それと同時に、悲しみを誘うバラードが流れる。それをBGMに三奈江が伸二に抱きついた映像のままエンドロールが出てきて、最後に次回予告に変わった。その瞬間にはあぁ〜と大きく息を吐き出し、クッションをぎゅっと握っていた手の力を緩めた。今日もよかったなあ、そう呟いてすっかり乾いた喉を潤すためにテーブルに置いておいたジュースを飲んだ。それを二回ほど繰り返してたら、やっっっと一息つけた気がする。




『ハッピーエンドだといいなあ……』




今見ていたドラマは最近流行りの月9だ。仲睦まじい恋人同士の伸二と三奈江。そんなある日突然伸二に病気が発覚、別れを決心した伸二は三奈江にわざと冷たい態度をとって他の女の子と浮気まがいのことをする。傷付く三奈江だったけど、伸二が病気だと知って……という一見ベタなドラマ。でも俳優さん達が豪華だし、何より結構見応えがあるってことで人気だったりする。ちなみにさっきのシーンは彼が病気だと知った三奈江がすぐに病室に向かい、伸二に想いを告げるというところ。いいところで終わらせたな、スタッフめ。意味もなくテレビに視線を戻すと、ドラマが終わって次の番組が始まるまでの間を繋ぐCMが流れていた。でも私はそれを見ているのではなく、あのドラマを思い出していた。

有難いことに今まで大きな病気なんてしたことがないから正直二人がどんな気持ちかだなんてわからない。だけど伸二と三奈江を景吾と私に置き換えれば、すぐに理解出来た。私も三奈江と同じで景吾が病気だとしても傍にいたい。あー逆に伸二の立場でも同じことするかも、景吾に冷たくするとか。……でも景吾なら無理矢理答えさせそう。いつになく反抗的じゃねーか、あーん、とか言っちゃってさ。




『ふふ、』




色々考えてたら、つい笑みが溢れた。なんか……めちゃくちゃ景吾に会いたくなってきた。学校あるから明日には会えるのに。でも無理な話だってことはちゃんと分かってる。だからこっそり撮った寝顔の写メでも見て我慢するしかないと携帯をとろうとした瞬間、着信を知らせる音が鳴り響いた。―――まさか!




『景吾っ!!』

「あーん、ちゃんと確認してから電話とったか?俺じゃなかったらどうするんだよ」

『ち、ちゃんと確認したもん!』

「いーや、嘘だな。俺様のインサイトに誤魔化しは効かねえ」




それってそんな能力じゃなくて対戦相手の弱点を見抜くやつだよね!?そもそも見てないじゃん!!普段ならそう言ってただろうけど今はそんな場合じゃない。『い、いきなりどうしたの?』そう尋ねれば「あーん?お前こそどうしたんだよ。いつもなら電話してもそんなこと言わねーだろ」なんて。どうして景吾はこんなに私を喜ばすのが上手なんだろう。些細なことだけど少し心配そうな声がまるで何かあったのかって聞いてくれてるみたいで嬉しい。頬が熱い。何故かちょっと緊張してる自分がいて、声を出せばきっと震えてると思う。




『あの、ね』

「ああ」

『さっき、ドラマ見てて、』

「この間言ってたやつか」

『うん。それでね、ちょっと切ない展開でね、なんとなく、私と景吾に置き換えて考えてみたの』

「お前と俺に?」

『うん。そしたら、その、……………』

「あ?」

『……………、』

「……名無しさん?」




景吾、あのね、




『会い、たい』




たったそれだけの言葉なのに、声に出すのにひどく時間がかかった気がした。そして気付く。もう夜の10時過ぎてるのにわがまま言ってどうすんの私。慌てて謝ろうとしたけど、景吾の凛とした声がそれを遮った。




「待ってろ」




プツッ、と電話が切れる。びっくりし過ぎて少しの間だけ携帯片手に放心する。え?待ってろ?待ってろって……まさか来てくれるの?景吾の言葉を何度か繰り返してやっと意味を理解する。そして我に返ると思わず勢いよくベッドにダイブした。そのまま声にならない声をあげてゴロゴロとベッドの上を右へ左へ移動していると、リムジンを飛ばして本当に景吾が来てくれた。ああもう大好き!






(4.待ってろ)

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