文(リボーン)
□さじ加減
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吐息程度の小さな溜め息であろうと、それが綱吉の口から零れるものなら獄寺が
聞き漏らす筈はなかった。
「そろそろ甘い物でもいかがですか?」
作業中でも片手でつまめるよう、色とりどりのチョコレートやキャンディや焼き菓子の盛り合わせをデスクの端に置く。
ニカッ、と音がしそうな笑顔になると、中学生の頃の人懐こさと変わらない。
通った鼻梁やシャープなラインを描く顎の精悍さは、確かな年月を物語っていたのだが。
「ありがとう。」
獄寺の選ぶ菓子に間違いは無い。
チョコレートを口に放り込んだ綱吉がピンストライプのスーツで強張った筋を伸ばしていると、堪えきれない欠伸が出た。
今度は獄寺が溜め息をつく。
「あんな下っ端を呼んでやってるからですよ。貴重な休憩時間に。」
今日の昼のことを言っているのだ。
出かける時間も無く、仕事をしながら急いで昼食を取って可能な限り仮眠しようとしていたところへ、仕事の報告に現れた部下。
あぁちょっと、と呼び止め、人払いをしてまでたっぷり一時間昼食を振舞っていたから。
「はは・・・でも行き詰まったような顔してたから。」
獄寺には無表情にしか見えなかったその男―下っ端と言っても随分年上なのだが―が何やら鼻歌混じりに退室した廊下を思い出す。
「何を話してたんですか?」
獄寺は、10代目のことならとりあえず詮索する。
「えー、なんだったっけ。音楽とか、映画とか、かな。」
「あぁ、それで。」
男と入れ替わりで入室したときに聴いた、この国の古いポップス。
元々はこの国の人間ではない上、やっと二十歳に手が届くかという年齢の綱吉には似つかわしくないと思っていたが。
「ずっと前に彼の仲間と話してた時に、彼が好きだって聞いたのをなんとなく思い出してさ。」
それが男のご機嫌改善に一役買ったのだ。
またこの歌手のお話を聞かせてね、と送り出した綱吉に向ける男の表情を思うに、上機嫌の原因は曲だけではなさそうだが。