文(リボーン)

□奥歯の声
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ギリッ・・・


あ、またやってる。

綱吉はじっと見つめていた山本の口元から、聞こえこそしない歯ぎしりを感じた。

居残りなら一緒に帰ろうぜ、と言い捨てて自主練に駆け出して行った山本に、良いとも嫌とも言いそびれた綱吉は、やり残した課題で膨らんだ鞄を傍らにグラウンドの端でぺたんと座って待っていた。

暑い。
元々長い山本の影がぐんと伸びる程陽が暮れているのに、熱せられた地面は熱いままだった。
蝉の声が自分の身までジリジリ焼くようだ。こんな日は脳もそれを繋ぐ神経も曲がりくねってろくに働かない。


カキン、と軽い音がして高い空にボールが吸い込まれて行くと、山本は真っ白な歯を見せて綱吉にバットを振って見せる。
ぼんやりした頭のまま手を振り返しながら、意識は覗いた歯列の奥に向かっていた。

強く奥歯を噛み締めるときの山本の相貌は、獲物を前にした獣染みている。

ボールがどう向かって来るか見定めようとする鋭い目。
ギッ、と音を立てたであろう奥歯。
一瞬盛り上がる上腕、バットを振って引き絞られた腰の逞しさ。

彼にとっては何気ない動きこそが綱吉の目を奪っていた。
いつになく好調な山本がそれを繰り返す内にどれ程の時間が過ぎただろう。
その間にも地に籠った暑さが綱吉の脳を焼く。




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