文(ハガレン)

□始まりの終わり
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これくらいはいつものことなのにな。

淀んだ空気で満ちた部屋を見遣ってエドワードは眉を寄せる。

「兄さんは…敏感だね。」

背筋を撫で上げられて身体が跳ねるのを止められなかった。

「あ…っ。あんまり言うなよ。」

「どうして?ボク嬉しいんだよ。兄さんがボクを感じてこんな風になってくれるのが。」

「もうやめてくれって・・・!オレ…どうしちまったんだろ。」

「泣いてるの?そんな目して。」

アルフォンスに目尻を拭われて、これ以上喋ってくれるなと必死で舌を合わせた。
合わせた唇からアルフォンスがその動きで言葉を伝えてくる。

(愛してる、兄さん。)

こいつは逃げさせてもくれないのか。
もうダメだ。
なんとかして少しこいつの勢いを削がなかれば、もうオレは受け止めきれない。

(大佐!大佐はいないだろうな?)

苦肉の策だった。
事前にアルフォンスが家中のトラップを発動させていたのは分かっている。
アリの入る隙もないはずだ。

(え…どうしたの、急に。)

(オレたちの始めてを誰にも分けたくないんだ、わかるだろアルゥ。)

必死の色仕掛けだった。アルフォンスの余裕の笑みが憎い。

(今さら?まあいいや、どうぞ。)

(演技だからな、感じるなよ?)

平気な顔を作って唇を引き上げて見せる。
よし、この隙にクールダウンするんだ。
血が集まって熱い瞳を瞬いて体を起こし、アルフォンスを後ろに倒しながらその腰に身を伏せた。

「アル…気持ち良くしてやる。お前って可愛い顔するのな。あの大佐に見せてやりたいくらいだぜ。」

「もう、兄さんたら・・・・って!え!?」

言った途端、ベッドの下から青い軍服が這い出した。
「はがねのがそういうのならなんまんかいでもー!」

「「うわぁホントにいた!」」

思わずベッドの上で抱き合って震える。

「どどどどどうやって入った!?」

アルの鉄壁の防御を突破したというのか。

「ハッハッハ、まぁいいじゃないかそんなことは。出るつもりは無かったが見せてやりたいと言われてはな。鋼のー、私も入ーれーて。」

「えっ!お前入れられてぇの!?」

おぞましい一言が、無言だったアルフォンスの肌にドット模様を浮き上がらせる。

「違う。トラップバトル。」



「何でお前が!」

「面白そう。遊びたい。お願い。」

かわいいつもりのロイが首を傾げる。

「きもっ!お願い攻撃はアルのしか効かねぇぞ!」

「兄さん待って。・・・望むところです、大佐。勝負しましょう、トラップも肉弾戦もありで。その代わり賭けてくれませんか。」

驚いたエドワードがアルフォンスを振り返る。

「何をだね。ベタなところで私の身体?」

「冗談は死んでから言って下さい。ボクらが勝ったら覗きを止めると約束して欲しいんです。」

「いや、普通に覗きは犯罪だから止めさせれば・・・・」

たまにはエドワードも突っ込む側に回りたい、色々と。



「大佐に勝てば安心して続けられるなら!戦おう、兄さん。」

「わかった、約束しよう。・・・行くぞ!」

「ええもう!?待て待て拙速を尊ぶにも程がある!服着させろ!」

「問答無用だ!そこに直れぇい!」

「なんか違うぞ!わーーー・・・・!」



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「どうした。もう終わりかね?」

終わりも何も指一本動かせる状況ではない。
エルリック弟兄は二人纏めて拘束の上こんがり焼かれてベッドに放り出されている。

完敗だ。

対する大佐は頭頂部にたんこぶ一個。
天井から金ダライが落ちてくるというドリフなトラップは軍のマニュアルに無かったため、一つくらいはケアレスミスを犯してしまった。
だがその後に仕掛けてあった連鎖トラップ(床が傾いて池にはまる等)は悉く避け、尚且つ反撃トラップに利用されている。

「ちっきしょ…なんで変質者のくせにこんな強いんですか?」

「アルフォンス…君らのトラップはそれぞれが独創的で精緻かつ機能美に溢れている。おそらくかなりの軍人でも敵わないだろう。だが私は誰だね?」

「EDの小児性愛者。」

「焔の大佐だよ。」

手酷い侮辱に真顔で答える。

軍人は、人間が人間を攻撃するのが仕事だ。
加えてロイの錬金術の方向性もただのマッチ代わりと言うには不穏すぎる。
武闘派錬金術師と言えどエルリック弟兄の戦闘能力は本来人間を攻撃するために身に付けたものではなかった。

「…もうムカついた。アルッ!トラップバトルはやり直しだ!大佐に勝て!」

「なっ、なんでやり直し!?良いって言ったじゃん!」

愕然とするアルフォンス。やっと全てが始まったと思ったのに。

「もっと強くなれ!オレは強い人間が好きだ。」

「でも鋼の、私はたまに遊びに入れてくれればもう大人しくする・・・」

「わーわーわー!なっ!?また来る気だぜ、大佐は。勝ってみせろよ。賞品はオレだ。」

「〜〜〜〜〜!!わかったよ!!見てろ、ダメな大人の1人や2人こてんぱんのけちょんけちょんにしてやるからな!」

「あぁ・・・っ!闘志に燃えるアルフォンスもいい・・・!!」

こうして始まりは始まらずして終わった。


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余談。

(危なかった…。意識しだしたらもうダメだ、するときのアルはすげぇクる。慣れるまで引っ張ろ…。)


エドワードが始められない理由は、実は少し離れたところにあった。


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あー乙女だった。乙女兄さん書いちまった。
アンチ乙女の方すいません。 私もアンチですが。


兄さんの遅れた芽生え。

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