文(ハガレン)

□トラップ・オア・トリート
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エルリック家の目の前に立ったロイは呼び鈴がカボチャ型に変わっている事に気付いた。

何だろう、前回ここを訪れたときはなまはげを象ったものだったはずだが。

このマトモなセンス、精巧さは弟の作だな。
よし、うまく作ったねと頭でもなでなでしてやろう。

ロイはアルフォンスの嫌そうな顔を想像して胸がときめくのを感じた。



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どだだだだだ、と階段を降りる足音が聞こえる。

「むぅっ来たなアルフォンス!」

首尾良く無断侵入を果たしたエルリック家のリビングで、ロイは攻撃の予感に発火布の手袋をウキウキ構えた。

「こんにちは、大佐っ!」

アルフォンスが凛々しく愛らしい顔をドアから覗かせた。
早速焔を起こそうとしたロイがあんぐりと口を開ける。

「トリック・オア・トリート?」

アルフォンスがロイの前で大きな爪と牙を剥き出して見せた。
黒いコートの下には白いシャツと臙脂の編み上げズボン。大きく開いた胸元から覗く素肌。
頭には黒い毛に覆われた三角の耳が二つ、腰から足元まで垂れた豊かな尾。

「・・・・・・・・・・・・!!」

軍人らしい沈着さなどそっちのけでロイはエルリック家の悪趣味なカーペットに持ってきた土産を取り落とした。

ロイの足元で土産の包みが覗く。
幸いにも悪趣味なカーペットは冬仕様に変えたばかりで非常に毛足が長く、柔らかく土産の鯖寿司を受け止めてその無事を確保したようだ。

後から部屋に入ってきたカーペットの作成者がしたり顔で頷いている。
弟の反対を押し切ってこの無駄に豪奢なカーペットをあしらったことに満足しているに違い無い。

放置すると危険な兄の心理を瞬時に読み取りつつも、冷静な弟はその問題を後に回すことにした。

「もう、やだなあ大佐。ハロウィンですよ、ハロウィン。」

「はぁ・・・」

横ではエドワードが拾った鯖寿司をモシャモシャ頬張っている。

「大佐ってイベント好きそうなのに忘れてたんですね。せっかく来てくれたんだし今日はトラップなんて無し無し!お祭り騒ぎしましょうよー。」

「そうだそうだ!どうせ菓子も持って来てないんだろ?お前にだけはイタズラしたくないからエドワード様お手製菓子をやろう。」

バスケット一杯の菓子がロイの目の前に差し出される。
見事に膨らんだドライフルーツケーキ、整ったチェッカークッキー、様々なフレーバードキャラメルが色とりどりに過剰ラッピングされて目に厳しい。
料理は巧いがなぜセンスがこう毒々しいのだ。

思わず凝視していると、エドワードが黒いふわっふわのスカートを翻して菓子をロイに投げつけた。
よく見ればエドワードもなんだかよく分からない格好をしている。
これでもかとばかりにぶら下げた鎖や骸骨の首飾り、頭には真っ赤なリボンを乗せたトンガリ帽。
ご丁寧に赤い口紅を塗りおさげまで結っている。

「な、なな、なななんだねその姿は?」

「魔女だ!ほ〜れどうだ、魔性の美女だぜ。」

案外器用に化粧をしているのに加え、普段と同じ色合いの服装だったため意外にも似合っている。
魔性の美女という形容には違和感があるが、「とにかくエルリック!」を座右の銘とするマスタング大佐殿には貴重な魔女っ子系エドワードという方面で興奮していただけたようだ。

「君は何だね、アルフォンス。」

どきどきする胸を押さえて傍らの弟に向き直る。
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