文(ハガレン)

□チャイルド・プレイ・エキゾチカ
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「お前も脱げよ、アル。」

「兄さん、ボク…。」

「嫌になったか?」

「そんなわけないでしょ。自分で脱げるから・・・。」

「そうか。…あんまりこっち見るなよ?」

「恥ずかしがらないでちゃんと見せて・・・って!やっぱり間違ってるじゃん!左の袷が前だよ。」

「うるっせえなぁ!わかんねぇよ、東の果ての民族衣装なんて。」

「ちゃんと着て!おままごとでも本格的に!」


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今日はおままごとの日である。

アルがおままごとの日を主張すればそれはおままごとの日なのだ、アルの「兄さん、お願ぁい」に滅法弱いエドが過剰にノリノリでオッケーしてしまうから。

本当は東の国の「浴衣」という民族衣装の資料を発見したアルが、そのエキゾチックなチラリズムを兄で具現化させて萌え萌えしたい(あわよくば今日こそ行き着くところまでいっちまいたい)と目論んだだけなのだけれど。


アルのお願いの仕方はえげつなかった。

「もうすぐ花火があるなーって何気無く雑誌見てたら東の国の写真があったの。子供と手を繋いで、浴衣って言うお揃いっぽい服着て花火見物する家族の写真があってね。」

目を伏せると、頬に睫毛の影が落ちた。

「ボクは遠い記憶にしかないけど家族団欒ってこういうことなんだ、って・・・。おかしいよね、ボク子供みたい。」

切なげな微笑みにため息のコンボ技。
任せろオレが写真で見た通りの団欒をお前にやる!
の一言位、アルフォンスの餓えた子供心を満たさなければと焦ったエドから容易に引き出せた。



「ままごとみたいなもんだけどな。」

と苦笑する兄に

「じゃあ、本気でおままごとだね。」

と、兄の腰を砕くキラースマイルでダメ押しの小ずるいアルフォンスのどこらへんに家族団欒に憧れる子供心を見るのか。




そして冒頭の通り。

何しろ普段の服装すら適当に破いて回る無頓着なエドが、現地人でも手間取る浴衣の着付けに5秒で飽きるのは分かりきっていた。

こうなればアルフォンスの勝ち。

自分好みの浴衣を、自分はもちろん兄にもとっとと着付けにかかる。



「・・・・お前のことだから、女物とか持ってくると思ったのにマトモだな。」

抱きつくように袷と背筋を正されて、気を逸らすためにエドワードが呟く。

「だってどうせ着てくれないじゃんっ!」

ぷぅ、とふくれっ面のアルフォンス。

ほんのり色づいた子供みたいなふくふくほっぺに、エドワードは弟フェチ心をぐらんぐらん揺さぶられた。

「ちょっと、なんて顔してるの。帯、苦しくない?」

動きの大きい兄のため、少しきつめに帯を結ぶ。

「ん・・・苦しい。気持ち良い。」

「は?」

「いや、ちょうどいいぜ。」

「今ワケわからない言葉が聞こえたような・・・。ま、いいか。できたよ、兄さん。」

ぱん、とさり気無くエドワードの引き締まった尻を叩いて鏡の前に立たせる。

エドワードに見立てたのは、一見すると黒の無地だが光の加減で仄かに上品な金糸で象った模様が全体に散る粋な一着。

アルフォンスはその地色を白にしたもので、兄と同じ金の模様。

揃いの帯も金色で、誂えたように二人の髪と瞳の色に合っている。

「カスリ」って言うんだよ、よく似合ってる。
と、エドワードの髪を結い上げながら襟足に香油をひとすじ塗り込んでうっとりと囁くアルフォンスの声に、またうっとりするエドワード。

うっとりして上気したエドワードの肌にますますうっとりのアルフォンス。

自給自足でうっとりできる幸せな電波兄弟である。
何はともあれ、おままごとの準備は完了だ。
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