文(ハガレン)
□退廃の退廃たりえぬところ
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ノックも無くずかずかと部屋に入ったアルフォンスが、カーテンを開け放って太陽の光を部屋に満たした。
「起きて、朝だよー。おはようございます、ハイデリヒさん。」
「んー・・・エドワードさん、もう少しだけ寝かせて…。」
「もうっ寝ぼけてるんだから。ボクだよ、起きて!」
揺すって起こす、にしては少々過激にぐらんぐらん揺さぶりをかける。
ハイデリヒが適度に不死身だったのが救いだが普通なら挫傷の一つもできているところだ。
「眠いよ・・・エドワードさんたら、朝はハグとキスでしょ・・・。」
カァッチィーーン!!
実は長くもなんとも無い少年の導火線が焔を上げる。
「ハグとキス・・・ねぇ。」
青い焔がアルフォンスからゆらりと立ち昇る。
上がった片頬が不気味だ。
横たわる金髪の頭をわし掴んで上半身を引き起こし、噛み付くように(というか噛み付きながら)口付けた。
ぶっちゅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぐーちゅぐちゅぐちゅガチべろれろガチべらりら(※三分)
「ん!?んーーーー!!!うげっほげほげほ!!」
ようやく片目を開いたハイデリヒがいつもとは質の違う咳をする。
「ぶはぁっ!やっと起きたか欲塗れダッチ。」
アルフォンスがぺっぺっと口元を袖で拭いながら赤みの無い頭に踵を落とした。
ぼき、と聞こえてはいけない音がする。
「何するのさ、アルフォンス君・・・。」
「朝はハグとキスなんでしょ。」
嫌な笑いを頬に貼り付けたアルフォンスがハイデリヒの膝に跨がり、首に腕を巻き付ける。
子供独特の色香を全面に押し出した、なかなか情熱的なハグだ。
「んぅ…君のハグ、首がすっごく圧迫され、るね・・・。アルフォンス君は力持、ち……。」
とうとうハイデリヒの意識が霞み始めた。
青い瞳の中心に位置する黒点が染みの様に広がる。
そのあたりで気が済んだらしいアルフォンスが腕の力を弛め、真珠のような歯列を覗かせて無垢な笑みを見せた。
背中に腕を回し、後ろ向きに倒れ込もうとするハイデリヒの身体を支えてやる。
「えへへ。気持ち良かった?」
こほ、と咳が一つ。
酸素を取り入れたゾンビが復活した。
「うん。アルフォンス君はキスが上手だね。剛良く柔を制すって感じだよ、若いなぁ。ケホコホッ。はぁ…。で、あれは良いの?」
あれ、と指差された方を振り返る。
目前のゾンビより顔色を無くしたエドワードが、脚を震わせながら壁に身を凭れさせていた。
「あれ、兄さん。見てたの?」
かろうじてこくりと頷く。
脚が小鹿のようにふらついて今にも崩れ落ちそうだ。
「や、めろ…。オレの目を盗んで何を…。」
いつも無感動に生きているとしか見えないデカダンエドワードにショックを受ける感受性が残っていたのか。
とにかく、あの無感動なエドワードが動揺している。