文(ハガレン)

□出張軍部で春の嵐
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翌日の夜----

扉が開く。

いちいち爆音と共に飛び込んできた頃が嘘のように、エドワードは静かに夜気を伴って部屋に滑り込んだ。



「よぉ、大佐。急な呼び出しだな。迷惑だぜ。」

言うことが弟と大して変わらない、とロイは苦笑を禁じえない。

「相変わらずだな。少し時間が空いたことだし、こういう時のための専用回線もたまには使ってやらなくては、と思ってね。」

「たまには、か?」

エドワードが猫の様に目を細める。

「おいで、鋼の。」

強く腕を引かれてのけぞるようにロイの胸板に倒れ込む。

「…!いきなりだな。」

「甘い言葉でも欲しかったか?」

「たまには、な。そういうのも覚えておいてアルを篭絡するのは面白いかもしれない。」

たまには、と楽しむように言い、エドワードはロイの目の奥を覗く。

「目を閉じろ。」

「がっついてんな…ン……!」

濡れた音が広い部屋でいやに大きく聞こえる。

いつの間にソファに誘導されていたのか、とエドワードはちらりと頭をめぐらせるが、余裕を奪うのが目的とでも言うような口付けに抵抗する気も無くし傍らのソファに二人で倒れるように座り込んだ。
だが、ロイが慣れた動きでシャツのボタンを外し、袖を抜く途中でシャツを止めたため、エドワードは腕を後ろ手に拘束されてしまった。

「なん、だよ。今日はそういう気分なのか?」

濡れて益々輝く金色の瞳が、肌蹴た肩に散る金髪が、噎せ返るほど色を放つ。

「あぁ…。鋼の、私の膝に座りなさい。・・・こうだ。」

しっとりとした体を正面から羽交い絞めにする。
ロイは大きく息を吸い込んだ。


「今だーっ!!アルフォンスーーーッ!!!」

いつから室内にいたのか。驚くほど近くにアルフォンスが間合いを詰める。


ガシャン!


「な、なんだよ!?・・・っ!!ア、ル・・・!!」



「兄さん、捕まえたよ。」

振り向いた目にアルフォンスが映る。
エドワードの手首は後ろ手に木製の手枷だ。これで錬金術は使えない。

「てめっ・・・大佐ぁ!グルだったのか?!」

先程の艶はどこへやら、羽交い絞めにされたままで身動きが取れないにも拘らず、恐ろしい形相でエドワードが牙を剥く。機械鎧の蹴りと頭突きはロイが関節技をかけるまで続いた。

「私もアルフォンスがいるのに気付いたのはほんの先程だよ。」

危うくその先までしてしまうところだった、と密かに息をつく。
本当に危なかった。
無邪気に社会的制裁を加えられて政治生命を絶たれるわけにはいかない。
アルフォンスはそういう悪意の表現をする男だ。

「約束だ。トラップレポートをもらおう、アルフォンス。」

「はい、これです大佐。」

「どれどれ・・・。」

レポートは生真面目なアルフォンスらしくスタンダードにも料理本に似せてある。

「『ひよこ豆調理全集』か。フッ、言いえて妙だな、アルフォンス。解読も楽しそうだ。」

「恐れ入ります。では、僕たちはこれで。・・・行こう、兄さん。それと大佐、今回ので兄さんとの連絡方法と密会場所の傾向も分かりました。次以降は鉄壁の邪魔が入ると思ってくださいね。」

飽くまでもにこやかな弟は、怒りで赤豆のようになった兄に上着を羽織らせて、帰途に着いた。

ロイはポツリとつぶやく。

「鋼の・・・。何をされても耐えろよ。」
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