文(ハガレン)

□トラップ・オア・トリート
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「狼男です、大佐! 」

コートを翻してくるりと回り、尻尾と耳をぴくぴく動かして見せた。
さすがはネチ細かいアルフォンスの作る飾り、まるで本物のように見事な動きだ。

「ア、アルフォンス。それは東の国の一部で評判な猫耳としっぽにしか見えないよ・・・」

「猫はこんなデケー牙してねぇけどな。」

エドワードが冷静に突っ込む。

「がおー。食べちゃうぞー!」

無邪気にアルフォンスが口角を上げて長い牙と赤い舌をロイに見せ付けた。
幼いコケティッシュにロイが咽喉を鳴らす。

「オレだって。魔法かけちゃうぞー。」

エドワードがスカートを惜しみなくめくって太もものガーターベルトから魔法のステッキを取り出し、先端の髑髏でロイの頬をぴしゃぴしゃ叩く。

「ほほ本当かね?」

ロイの目がバシャバシャ泳いだ。

「ふふ。ほんとに食べちゃいますよ?」

「その代わりお前の魂は貰うぜ。」

狼が細めた目をロイに近づけ、魔女が壁に追い詰めた獲物の心臓を人差し指で指す。
普段見せてもらえない至近距離のエルリック弟兄にロイは心拍数が人の限界を超えるのを感じた。

「ああ・・・!ならば可能な限りゆっくりと食べてくれ。指からが良い。」

芬々たる変態臭を受け流し、アルフォンスが獰猛な色香を纏ってロイの瞼に触れた。

「味付けはどうしよう?」

エドワードが見るものを色に引き摺り落とす唇でロイの心臓の位置に口紅の痕を残す。

「獲物は生で楽しむものだぜ。」

エドワードがべろりと赤い唇を舐めた。

「目を、」

アルフォンスが当てた指先を押した。ロイが従順に目蓋を落とす。

「閉じたね…?」
「あぁ。」

アルフォンスの顔が近づくのを吐息で察する。
頭の横の壁にアルフォンスの両手が置かれたのにロイが気付いた瞬間………

パン!
ばしばしばっしーんドンドンドンバンゴンキリキリズルびっしゃー!


「………。」

哀れ、ロイは壁に仕掛けられたトラップによってBB弾とパチンコ玉と投げパイその他にまみれた上、全身包帯拘束のマミー男にされてしまった。
当然身動き一つ取れない。
ちなみに、トラップ攻撃寸前の弟の殺気に気付いたエドワードは辛くもとばっちりを逃れていた。

「兄さん、捕まえたよ。」

アルフォンスが兄そっくりの顔でニヤリと笑う。

「おー!見事。」

ぱちぱちぱち。
対極まで飛び退った部屋の隅でエドワードがにこにこ弟を賞賛した。

「これでやっと振り出しに戻れた。兄さん、覚悟してね。」

「約束は守るぜ。またトラップ勝負だな。」

男らしく勝負の約束で微笑みあう兄弟。

「おーい・・・。」

マミーがぎしぎしと動いた。

「今日は・・・トラップ無しのお祭りでは無かったのかね?」

打って変わってサディスティックな策士顔のアルフォンスが冷たい笑みを頬に張り付かせる。

「ボク、色々勉強したんです。大佐が兄さんを破ったときの戦略もね。それにこの数週間ムダに負けてたわけではありませんよ。」

かつてロイがエドワードと軍で戦った折に用いた東洋の戦術書[孫子]は知将タイプのアルフォンスに良く馴染んだ。

善く戦う者は先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ。
勝てる状況を完成させてから敵を落とすのだ。

完全勝利を兄に見せるため、この数週間敢えて罠にかかってロイのトラップスキル全てを盗み、同時に敵を観察してそのフェチズムを見切った。
ロイが喜んで飛び込んでくるに違いないトラップ。

それは色仕掛けだった。
さらにこの作戦ならばコスチューム好きのロイは例えトラップと分かっていてもかかっただろう。

ちなみにエドワードも一緒に仕掛けていたのは、ただいつもと違うアルフォンスが面白かったからノっただけだ。
アルフォンスはそれも可能性として計算していたが。

「兵は詭道なり。騙し討ちも立派な戦略って、大佐が言ったんですよ。」

「「カーッコイーーー!!アルフォンス!!」」

エドワードの指笛はともかくロイの絶賛。
・・・ここまでされて尚メゲないタフさは変態の域を超え、尊敬に値する。
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