いち
□そんな君に恋してる
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ふわ ふわ
ふわ ふわ
ずっと一緒に飛んでゆく
草原に寝転んで、目を閉じて空を見上げていたら、まぶたの裏に金魚が飛んでいた。
「ねぇ。金魚が飛んでる」
そう言ったら、隣りに同じく寝転んでいた弁慶が「えぇ?」と驚いたように口を開く。
「どうしたんです?いきなり」
「だから、飛んでるの、金魚。赤いのと黒いの」
「…寝ぼけてるんですか?」
伺うように身を乗り出し、あたしの方を覗き込みながらそう尋ねてきた。目を開いて「起きてるわよ」と返せば、困った顔。
「そう。じゃあ弁慶には見えないのね、残念」
顔を見上げながら笑って見せる。そうすると、更に困った顔をしながらそれでも釣られてか弁慶も笑った。
男のくせに女みたいな綺麗な顔。
手を伸ばして頬に触れたら、目を細めて「どうしたんです?」と訊かれた。笑顔のままで。ホント、美人で困る。
「好き」
ほらね。驚いた顔。
あたしはその顔が好き。
「君は…本当にいけない人だ」
照れたように笑う今の顔は、もっと好き。
「そんな事を言って僕を喜ばせて、一体どうしたいんです?」
「なんだか急に、言いたい事は言わなきゃ損だと思ってね。大好き。世界一弁慶が好きよ。お饅頭より好き」
「お饅頭より、ですか。光栄だな」
ふふふ、と笑う弁慶の頬から唇へと指先で肌をなぞる。
「全部好きよ。愛してるの。自分でも恐いくらいに、ね」
言うと、手を掴まれそのまま弁慶の唇があたしのそれと重なった。女みたいに柔らかい唇。それも、好き。
「困ったな…。僕はどう応えたら良いんだろう」
「簡単よ。言って?それか口付けして」
さっきより近くなった弁慶の顔を両手で引き寄せる。落ちる前髪が、あたしの顔に垂れるほどそばに。
弁慶にだけ聞こえるように、ささやく。
「もしくは両方。ううん。両方が良いわ」
呆れたように「正直ですね」と笑われ、あたしも口を歪めた。
唇が重なると同時に目を伏せる。
見えたのは、空を飛ぶ二匹の金魚。
赤い方はあたしで、黒い方は弁慶ね。
目を開けば、唇の先がまだ微かに触れる距離で、弁慶が小さく強く呟いた。
「愛しています。…僕をもっと、困らせてみせて下さい、ね?」
あたしを、全てを魅了する笑み。
ほら。その顔も愛してるの。
大好きな貴方のご要望は、叶えないと。
そうでしょう?
そんな君に恋してる
(貴方が望むなら、他の事を考える暇なんてないくらいに、困らせてあげる)
SCHNEIEN様よりお題を拝借。