いち

□待ち惚け その後に
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吐き出す息が白く染まった。

首をすぼめてポケットに手を突っ込む。

空を見上げると、真っ黒な空に息よりも白い星が光っていた。


もう夜も随分深けている。

ヒノエは、公園の中央にある時計を見た。



もう、無理かな。やっぱり



諦めようと、目を閉じる。

冷たい風が吹いている。乾いた空気。どれだけ着込んでいても寒さに震えた。

閉じたまぶたに、笑顔が、泣き顔が、怒る顔が浮かぶ。

絶えず変わる表情。

そのどれも、全部が好きだった。

好きだった?いいや、今も好きだ。

大好きで、愛しくて、たまらない。


でも。

約束の時間、約束の場所に、彼女は来なかった。

何かあったのかもしれない。

電車が遅れたとか、なにか。

でも、そう思ったって未練がましいだけじゃないか。



ったく。カッコ悪いね、オレ



自嘲気味に笑う。虚しい事この上ないが、どうしようもない。

ポケットの底、奥深くにしまっておいた物を外には出さずに握り締めた。

渡そうと思ってた、それ。

想いと一緒に渡したかった。



「雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう、か…」



街を歩いている時耳にした歌。

その雨だって降りやしない。

ここにいて、どうする。どうなる。

もう、帰ろうか。これ以上待って、彼女がここに来るなんて保証はない。



諦めようか。

待つ事も、想う事も。

全てやめて、暖かい部屋に戻ろうか。



一歩。踏み出す。

約束のその場所。一瞬前まで自分がいた場所に背を向けた瞬間、胸が痛んだ。


閉めつけられる感覚。


苦しい。


不意に涙が出そうになる。

立ち止まって、手を握り締める力を強めた。爪が食い込むほどに。

俯いて、それこそ未練がましく振り返ろうとした、その瞬間。







振り返って見えた姿に、嬉しいはずなのに胸は更に閉められた。








待ち惚け その後に

聞こえて来た足音に世界が滲んだ。雪になる雨が降って来たのかもしれない。なんて、冗談

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