壱
□手作りの味
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今日も彼はあそこにいるだろうか。
最初の頃こそそう思って毎日緊張を胸に自動ドアをくぐっていたものだけど、最近はもう、そんな心配どこへやら。
だって絶対そこにいるから。
ファミレスの角の席。あたしは行き先をセットされたミサイルみたいにそこしか目指さない。
このミサイルが狙うターゲットは顔中ピアスまみれの電波的変人だ。
二台のノートパソコンにが目印になっていて、いや目印なんてなくてもあの頭さえ見えれば間違うはずもないんだけど。
「こんばんは」
そう声をかければやっと顔があたしの方を向く…と思ったら大間違い。ターゲットもそんな簡単に攻撃を受けてはくれないんだから困りもの。
だからカバンから取り出すのは、ヤツを打ち落とすための有効的物資。
「本日発売のポテトチップス新味。さてゼロワン、食べたくはない?」
ほら効果テキメン。
あたしみたいな女の子の声にも反応を見せなかった電脳男はすぐに顔を上げて、目的の物を視界に納めた瞬間物欲しそうな顔であたしを見る。
「こんばんは」
もう一度さっきの言葉を言えば、今度は不思議そうな顔をした。
おいおい挨拶は交友関係ひいては人間関係の第一歩で…いや、この男にそんなこと説明したって意味がないのか。電子の世界で生きるゼロワンにはあたしの世界の常識なんてお構いなしだ。
「なんかもう、いいや、はいこれどうぞ。差し入れね」
言いながらゼロワンの目の前の席に座ると、一瞥するだけで何も言われない。
これはポテチのワイロ効果?
嬉しいような切ないような。
「あぁ…そう言えば」
ふと掠れた声が目の前から聞こえてくる。それはピアスの隙間から出てくるゼロワンの声。
さすがに聞き慣れたもののそれでも普段は聞かない異質なそれに、あたしの返事には今日も一拍の間が生まれる。
「なに」
「今日ここのウエイター以外ではじめて話す相手だな」
「あたしが?」
「そうお前が」
それだけの会話。
それだけ言うとゼロワンはあたしの存在なんて軽々無視してポテチに夢中。
手持ち無沙汰なあたしはゼロワンの顔に出現した新入りピアスくんを観察してみる。
わー。
楽しくもなんともない。
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