子供の領分

□転た寝―気づいた、その時は―《2013/05/26-完結》
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その日。
茅野陽一が強制的に参加する事になった大学の先輩との飲み会から解放されたのは、午後10時を過ぎた頃だった。
しつこい程の二次会への誘いをキッパリ断った陽一は、名残惜しとばかりに騒ぐ周りの声も一切顧みる事無くその場を去る。
そして、真っ直ぐ家に帰宅するのだった。



* * *



―――午後10時40分。
帰宅した陽一は、チャイムも鳴らさず自らの手で玄関の鍵を開けると家の中に入って行く。
家の者は既に眠っているだろうと予想していた陽一は、リビングから明かりが漏れている事に気づき足を止める。
何時も割りと早寝な弟達を思い浮かべ、
(……珍しいな。今日は。アイツ等、まだ起きてるのか?)
そんな事を思いつつ、
「…まぁ。明日は休みだしな。たまには良いか」
リビングのドアを開けると…同時に聞こえてくるテレビの音。
(なんだ。やっぱり、テレビを見て夜更かしってトコか?)
中の様子を確認しようとリビングに足を踏み入れた陽一は、周りに視線を巡らせ不思議に思う。
(誰も…居ない?)
テレビがつけたままなのに視界の中には誰も居ない状態。
―――どういう事だ?誰も居ないって。
―――電気もテレビも消し忘れか?
不審に思いテレビに近付く陽一は、フッと何かに気づく。
テレビの前に置かれたソファー。
ソファーの前で立ち止まる陽一。
前屈みで覗き込むと…ソファーの上には、いつの間にか転た寝してしまったのだろう直ぐ下(年の差2歳)の弟・広海の姿を見つけるのだった。

「――広海。広海」
陽一が広海の肩を揺すりながら声を掛ける。
「広海。こんなトコで寝てると風邪引くぞ」
広海を起こしにかかる陽一だが、何の反応も無い。
広海の寝顔を見ていると無意識に甘やかな声音になる陽一は、
「まったく、仕方ない奴だな…」
そんな言葉を漏らす。
…が、可愛い可愛い弟の寝顔を見ると、つい、笑みがこぼれてしまう。
広海の上半身を軽く持ち上げてソファーに腰を下ろす陽一は、微妙に角度を変えながら広海の頭が自分の膝の上に来る様に乗せる。
広海の艶やかな黒髪を撫でると仄かに香るシャンプーの匂い。
鼻先で感じる広海の香り。
同じシャンプーを使っていると言うのに、広海が使うとまったく別の物の様に甘く感じる。
―――スゴく、心地良い。
何度と無く撫でた後、陽一の長い指がその髪を絡める様に梳く。
ゆっくりとした優しい動き。
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