らぶしょこら

□ちょこまふぃん
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「こんばんは、悠さん」
「こんばんは、悠さん」
 
二つの低い声が重なって俺の名を呼ぶ。
片方は春樹、もう片方は夏樹の声。
高校時代の後輩でもあった二人は一卵性双生児らしく、見た目も声も、考え方や嗜好までそっくりだ。
そして厄介なことに、二人して男の俺が好きらしい。
俺もそれを拒まなかったせいか、今では二人×一人で恋人という複雑な関係となっている。
 
「毎日ご苦労様なことで……。今日は?何飲む?」
 
手元の作業を止めずにぶっきらぼうに返すと、嬉しそうに声が返ってくる。
 
「いつもので。明日は休みになったので悠さんの顔を見に来ました」
「俺も同じで。あれ、何か良い匂いしますね」
 
良い匂い、というのはオーブンの中でこんがり焼けているであろうマフィンのことだろう。叔父から譲って貰いカフェ兼バーを営むようになってから、毎晩こうして菓子作りをしている。作ったものは翌日のカフェのメニューにも出しており、中々の評判だ。

春樹と夏樹は仕事終わりなど時間が空いた際には押し掛けてくる常連客でもあり、今日は夜の十二時過ぎ、店は既に閉店しているというのに二人揃ってやってきた。
 
「明日用のマフィンを焼いてる。まあ俺の夜食だけどな」
 
はい、とカウンターに座った二人の前にアルコールの入った冷たいグラスを置く。
 
「え、ずるい。俺らにもくださいよー」
「金払うならな」

唇を尖らせる春樹に、けけけと笑ってやる。
 
「ていうか夜食って何ですか。まだ寝ないんですか?」
 
不思議そうに夏樹が首をかしげる。
それに俺は何も考えずに答えてしまった。
 
「ああ、DVD借りてきたから久々に見ようかと思ってて。たまには一人でゆっくり……」
 
とそこまで言ったところで、後悔する。
美形の双子が何故かごそごそと移動の支度を始めていたからだ。
「え……おい?」
「さ、悠さん。上に上がりましょうか」
「マフィンも丁度焼けたみたいですし。で、何のDVDですか?」
「ちょ、だから一人で……っ」
「やー、明日休みで良かったなぁ」
「あ、大丈夫ですよ。お店の時間には起こしますから」
 
どうやら俺の意見は無視で一緒に見ることが決定したらしい。
夏樹はオーブンから焼きたてのマフィンを人数分だけ皿に取り、残りを俺がいつもするようにタッパーへと移している。
春樹は俺の分も飲み物を用意してくれているのか、グラスに適当に酒を注いでいる。
 
(いや、一緒にDVD鑑賞は良いんだよ別に。けど……)
 
二人と一緒に部屋に戻ったところで無事に過ごせるわけがない。
それを今までの経験から痛い程分かっている自分の身が悲しい。
後悔先に立たずとはまさにこのことだろう。
 
「ほら、行きますよ」
 
にっこりと笑う双子に両腕を捕まれていては逃げることも叶わず、半ば連行されるように二階の自室へと向かった。
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