日和

□ふたりの気持ち
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ほとんどの部屋から灯りが消え、あたりは暗闇に包まれようとしていた。

しかし、朝廷の中庭、池に面したひと部屋からは未だに蝋燭からの灯りが仄かに漏れ出していた。

障子に映る人影は眠ることを知らず。蝋燭からのか細い光で手元を照らしながら、どうやら仕事をしているらしかった。

部屋の中には綺麗に整頓された仕事道具と1人の男。

このご時世にジャージ、しかもノースリーブ、を着ている男。

冠位五位にして、かつては遣隋使の役を担った彼、小野妹子だ。

彼は朝廷で働くだけあって頭が良い。

しかし、彼の手元の長文内容は冠位五位の彼が担うような内容ではなかった。


「ったく、あのカレー野郎!自分の仕事僕に押し付けやがって…!」

カレー野郎、とは言わずもがなわかるであろう、この国の経済、政治を背負っている本当のところは尊敬の対象にあたるであろう男。

年がら年中青ジャージに身を包んだ彼、聖徳太子だ。

…僕がこのふざけた服を着るはめになった元凶はこいつだったりする。

僕が太子に会ったのは遣隋使に任命されて挨拶しに行ったのが初めだ。

そのとき太子を見たときの感想を正直に話すと…、
…なんだこのオッサン。
だった。


一目見た時からなんのオーラも感じられず、毎日仕事しないでバカなことばっかりやってる。これが僕の太子に対する評価。
…たしかこのあいだ十二位の人にバカにされてたな。

でも、これが全てではない。正装をして外交しているときや、昔あった戦や出来事を話しているときの真剣な顔の太子は、まっまあ時々だけど、カ、カッコいいなあ、なんて思う時も…、ある。


…それに、馬子さんや他の朝廷の人には見せない本当に嬉しそうな楽しそうな笑顔。

その顔が、そんな太子が、僕は好きだったりする。




自分でも笑えてくる。
あんなオッサンのどこがいいんだろ、なんて自問自答してもなぜか答えは見つからないまま。


どうしちゃったんだろ、僕。

これがまさかの恋ってやつだったりするのだろうか。

…ないな。

自分で自分の考えに苦笑をこぼす。

「ふー…さて、早いとこ終わらせるか。」

僕は困った上司の仕事をすべく再び筆をとった。




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