日和

□隣の席の、
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ざわめく教室の中、新しく決まった自分の陣地に早々と腰をおろし、まわりを見渡した。
肩を落とし落胆するもの、あるいは興味ないというふうに振る舞うものがいるなか、歓喜に声をあげるものもいる。
席替えは運次第、仲の良いものと過ごす学園生活が楽しいのは当たり前、だからみなこの行動に一喜一憂しているのだ。

かくゆうこの僕もそう思うものの1人であったが、誰が隣に来ようと特になんとも思わなかった。
どうせたった1ヶ月の間だけだ、また1ヶ月後には違う陣地に自分も移動して、他の大多数のものも自分と同じように移動するのだから。
けれど時々、席替えをしたにもかかわらず同じ場所に鎮座し続けるというミラクルを起こすヤツがいる。そういうのも強運というのだろうか、はたまたその逆か。
…とにかく、席替えというのは運試しだ、と僕は解釈していた。

騒がしかった室内も先ほどに比べれば幾分かマシになったころ、
「鬼男!」
と自分をよぶ聞き慣れた声がした。

「妹子か…どうした?」
「相変わらずこういうことに関心ないなぁ鬼男は…自分のまわりの席の人ぐらい把握しときなよ。」
「どうせあとから嫌でも知ることになるだろ、面倒だからいい。」
「ははっ、変わらないなぁ昔っから。」
「…そうだな。」

この友人とは所謂幼馴染みという間柄にある。
小学生のころからの付き合いだからか、お互いがお互いのことをよく理解している。
それもそのはず、クラス替えをしても離れることなくずっと同じクラス、そのため運動会やその他の行事でも常に共に行動しているのだから。

「で、なに?」
「え?ああ、僕鬼男の前の席みたいだからさ、教えてあげようと思って。」
「へぇー…。」
「へぇーって…それだけ?」「興味ないし、席替え。」
「…まぁいいや、僕席移動させないといけないから、また後で。」
じゃあ、と手をあげて言う友人にああ、と自分も手をあげて返事をした。

なんにせよ、知り合いがまわりにいたほうが安心するのは事実だから、妹子が前の席というのは嬉しかった。
これでも自分は社交的なほうだと思っている。仲が良いとまではいかないまでも、それなりに喋る相手は足りているし、どんな人が相手でも大抵うまく接していく自信があったからだ。

自分のクラスでは女子と男子とで列がわかれており、女子と男子の列が交互に並び異性同士が隣になるようになっている。
僕の席は窓際一番後ろというベストポジションに移ったので、直接関係するのは前の席と隣の席の2つとなる。前の席は妹子だからあとは隣の席の女子が誰か確認するだけ。
と、思っていると、重い机を引きずるようにしながら席を移動させる音が隣から聞こえた。

「ああ来たか。」と思い顔をあげ誰かかを確認。

肩よりも少し長いぐらいの黒髪に特徴的な前髪。
日の下で生活しているというのに驚くほど白い肌には見覚えがある。

それに、一般人とは思えぬほどの整った顔だち。


─ああ、間違いない。

『閻魔大王』、だ。
もちろん本名ではない、あだ名だ。なぜそう呼ばれるようになったのかは知らないが、この学校のものはみなこの名で彼女のことを呼ぶ。
次期生徒会長との話もあるほどの頭脳を兼ね備えたうえにこの美貌だ、逆に注目を浴びないほうがおかしいと思う。

「あぁ〜…重い!もう!」

凛とした高い声にはハっとさせるものがある。

彼女は机を運び終えると足早に友達のもとへと行ってしまった。

翻るビロードのような髪。
本当に行動のひとつひとつが絵になる人だ、と素直にそう思った。




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