危傷転結


□No.1
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日常




日和学園。大きくはないが市内でも有名な進学校だったこの学校に僕は1ケ月前に入学した。

はじめてこの学校の制服に袖を通したときの感動は今でも忘れられない。中学のときの先生からは別の学校を薦められていたが、それを押し切って受験したのだ。今までの僕の学力は学校内でも上の下だったからそんな有名校受けたところで落ちると思われていたのだろう。でも、そんなこと本人である僕が一番わかっている。だから僕は努力した。その結果がこの制服だったわけだからうれしくてしかたがなかった。
とまあそんなこんなで日和学園一年B組となった僕は毎日楽しく過ごしている。





ざわついている教室に入ればいつもどおりにクラスメートからの挨拶がどこからともなくとんでくる。

「おはよー小野。」
「小野君おはよう。」

それに自分もおはようと返事をしてから自分の席に腰を下ろした。

「おはようございます小野君。」
「あ、おはよう曽良君。」

自分の席の前の席に座っているのは河合曽良君。一般人離れしたルックスをしている彼は入学して一ケ月で学校の有名人となってしまった。その上トップの成績で入学した彼は入学式の1年代表挨拶をしたほどの秀才だ。

「鬼男まだ?」
「はい、まだ来てないみたいですね。」
「じゃ、いつも通り遅刻ギリギリで来るのかな?」
「そうかもしれませんね。」

そういえばあいつは小さいころから時間にルーズだったなと思いこれは一生直んないなと苦笑する。

始業5分前ぐらい前にようやく鬼男が教室に入ってきた。
 
「鬼男おはよう。」
「おはようございます。」

当の本人は肩を上下させて額には汗がうっすらと浮かんでいた。

「走って来たの?」
「、あ、うん。家出るの遅れたから家から走って来た。」
「わーおつかれー。」
「そんなことするぐらいならもっと早く起きれば良いじゃないですか。」
「あーダメダメ鬼男のこれ小さいころからだからもう直んないよ。」

ね、鬼男。と笑顔で言ってやれば鬼男はなにも言い返せないのか苦笑いをしていた。

「そんなんで大丈夫?今日一時限目から体育だけど。」
「あっ、そうだった!すっかり忘れてた…。」
「今日長距離ってさっき体育委員が言ってましたけど。」
「えぇ!?僕もうバテバテなんだけど…。」
「まあ鬼男なら大丈夫じゃない?」

鬼男は小さいころからスポーツ万能だった。短距離のタイムは鬼男がクラスで一番だったなんてことはめずらしくない。おまけに持久力も人一倍なもんだから長距離でだってすごい記録をたたき出す。中学のころは陸上部からスカウトがくるぐらいだった。

「高校でもきそうだね、スカウト。」
「んー、でも陸上は入る気ないなあー…。」
「なにか入りたい部活でもあるんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…。」
「鬼男はただ単にめんどくさいだけだよね?」

そう言うと鬼男はバツが悪そうに笑った。

「妹子にはかなわないな。」
「そりゃあ幼馴染だからね。」

正直鬼男がこの高校を受けるときいたときとてもうれしかった。小さいころからの付き合いで一番傍にいた友人で、妹子にとっては兄弟みたいな存在だった。そんな鬼男が同じ高校だったら頼もしいことこの上ない。それもあったから受験勉強も頑張れたのだと妹子は思っている。

他愛のない会話は始業のチャイムが鳴るまで続いた。

その後、ホームルームを終え一時限目の体育の授業。やはり心配することはなかったと思えるほどに鬼男のタイムは良かった。
案の定体育教師に目をつけられてしまい放課後体育教官室に来るようにとの命令が下ったそうだ。




――――−



楽しい時間はあっという間にすぎると人は言うがその通りだと僕は思う。
授業の終わりまであと10分程度。それが終わればホームルームと掃除をして下校。中学のころから繰り返してきたはずのそれがなんだか新鮮で楽しくて仕方がない。一日が過ぎるのがこんなに早いなんて知らなかった。




鬼男が体育教官室に行っている間僕と曽良君は教室で待機することになった。
窓の外を見ると部活生が活動を始めている様子が見られた。

「そういえばもうすぐ仮入部が始まるね。」
「あー、そういえばそうですね。」
「曽良君どこか入るの?」

曽良君は10秒ほど思案してから、「読書同好会」と答えた。
聞きなれぬ名称に一瞬返答が遅れたが、なるほど読書同好会は曽良にぴったりだと妹子は思った。
「曽良君本好きだもんね。」
「ええまあ。」
「僕は…んー…。」









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