日和

□ふたりぼっち
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あれ においがする。

あの人の、においがする。


頭を撫でられる感覚に意識が浮上するのを感じながらそんなことをおもった。


…え?


そんな、まさか。
けれどあんな独特なにおいを発する人は世界広しといえどあの人しかいないだろう。



おそるおそる目を開けると、見慣れたヤツがそこにいた。


「たい…し…?」


僕の頭を撫で続けていたその人は僕が起きたのに気付いたのか手を止め、

「おはよう。」

とこれまた見慣れた笑顔をみせてきたもんだからおもわず。

「っふ…、ぅ…っ。」

「え、ちょっ、妹子なんで泣いてるの?なにこれ私のせい?」


いつもの青いジャージに身を包んであたふたする太子をみてなんだか笑えてきた。

…それと同時に、涙が次から次へと溢れてきた。

あれ なんで。

泣く理由なんてないのに。


止めようとしても止まらないそれを無理に抑えつけても、嗚咽は止まってくれる気配をみせない。

これには太子もびっくりするだろうななんてどこか冷静な頭で考えていた。

しかしふと太子のほうに目をやると、太子はどこかさびしそうな顔で笑っていた。


なんで、そんな顔してるんですか。


言いたい言葉は嗚咽に飲み込まれてしまう。

「っ、う…っ。」

「妹子…。」

太子は僕の手に自分の手を重ねた。

「つらかったね。」

「苦しかったね。」

「もう大丈夫だよ。」

…本当にこの人は。

普段はちゃらんぽらんなのにこんなときはちゃんとしっかりしてるんだから。

…そんなとこも好きなんだけどさ。







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