日和

□隣の席の、
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「鬼男さん?」
「ああ曽良か…なに?」
「どこをみているのか気になったもので。」

彼も友人で、名前を曽良という。顔が良いからか彼もこの学校では顔が広い。けれど彼の場合性格に難があるためか友人の数は少ないでいる。仲が良いといえば、国語教師の芭蕉先生とは妙に仲が良いようで、よく国語準備室に入り浸っているのを目撃する。
しかし、あれは仲が良いというのだろうか…生徒が教師を罵倒し暴力をふるうなんて聞いたことがない。
まぁ、それで上手くやっていけているんだから芭蕉先生もすごいと思う。

「どこって…別に、なんでもないよ。」
「はぁ、…そうですか?」
「…なにが言いたい?」
「いえ?ただ鬼男さんの視線の先にいる人物が誰なのか知りたかっただけですよ、僕は。」
「……。」

こいつのこういうとこ、僕は苦手だったりする。相手の心を見透かしたようなばかにしたような言い方が。
「曽良には隠し事とか絶対できないな…すぐバレそう。」
「おや、褒め言葉ですか?」「ははっ、そうかも。」

「…閻魔さんですか。」
「は?」
「見ていた相手。」
「ああ、一応。」

でも見惚れて見ていたとか、そんな甘い感情じゃない。動くものを目で追っただけ。そこにはなんの感情も存在しない。

…なのにこいつときたら、
「恋、ですね。」
なんて間抜けなこと聞いてきやがった。
だからおもわず「…はぁ?」と間抜けな声をあげてしまった。

意味がわからない。
確かに美人だとは思うが、ろくに喋ったことのない相手になぜ恋なんかしなければいけないんだ。
色恋沙汰には縁遠い学園生活を送っていたからか、ろくな恋の話すらなかった僕になんてことを聞くんだ、こいつは。
あ、言ってて悲しくなってきた。

「はははっ!それはないよ曽良君、鬼男が一目惚れとかあり得ないからさ。」

いつの間にか前の席にいた幼なじみが声あげて笑っている。
そういう彼も人のことを言えるんだろうか。長年いっしょにいるが彼の恋の話や彼女の話なんか聞いたことがない。
しかし、彼も曽良と同じで容姿は人よりも良くモテているのは事実だった。

「ああはいはい、どうせ俺の青春は灰色ですよ。」
「そんなこと言ってないのに…。」
ハハっと苦笑をこぼす彼。

「まったく、鬼男さんにも困ったものですね。」

「なにがだよ。」
「…まあ、いつか気づくときがくるでしょうし。」

そのときが楽しみですね、なんて普段はみせない笑顔をみせやがったもんだから、反論するのも忘れて僕はただ顔をひきつらせているだけだった。




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