小説2

□家デート
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有り得ないくらいドキドキしてる。
多分 今までで一番緊張してると思う。
でもそんなの当たり前だ。
恋人の家に、初めて来ていれば。



「テキトーに座っててくれ」



俺を出迎えてくれたゲンマさんは、部屋に通すとそう言ってキッチンへと向かう。
俺はとりあえず 小さなテーブルの前にちょこんと座った。



「ん ストレートでよかったか?」

「あ、どもっす」



差し出されたシンプルなマグカップを受け取ると、ゲンマさんは俺の隣に腰を下ろした。
淹れたての紅茶のほわっとする香りに ちょっとだけ緊張が解けた気がする。



「……」

「……」



座って数分。
どうしよう 会話が全然ない。
ドキドキしすぎてどうしたらいいかわからない。



「(どうしよう なんか話さないと…!)」



手に持ったままのマグカップをきゅっと握って 緊張のせいで震える唇を開く。
なかなか出てこない声をどうにか押して かすれた言葉がやっと出てきたその時。



「そうだ菓子食うか?」

「へ、」

「あ DVD見てもいいけど」



先に言葉を発したのはゲンマさんだった。
へらっと笑って言ったかと思えばあれやこれやと提案するゲンマさんは普段では想像も着かなかった。



「…あの、ゲンマ さん…?」


恐る恐る声を掛ける。
するとゲンマさんはぴたりと動きを止めた。



「いや……その、家に誰か呼ぶの初めてでよ、どうしたら いいのか…」



まいったな と俺の隣に座り直したゲンマさんは、バツが悪そうに頭を掻いて 口ごもりながら続けた。



「それにほら、それが大事な奴だってぇと その…キンチョー するっつうか、な」


言い切らないまま、ゲンマさんの言葉は小さくなって聞こえなくなってしまった。
けど、その言葉は俺の脳内で何度もリピートされる。

大事な奴 だって。
今までの気まずさなんかどっかいっちゃった。
口元を隠して顔を染めるゲンマさんと眼が合って、ふっと笑いが漏れる。

ああ 何か馬鹿みたいだ。
お互いに緊張し合って お互いどうしたらいいかわかんなくって戸惑って。
実は俺たち 似たもの同士なのかもしれない。



「笑うなっつの」

「だって ゲンマさんかわいいんだもん」

「……お前も充分可愛いよ」



照れた顔で額に軽くキスをされる。
抱きしめてくれたゲンマさんの首に腕を回して。
近づいてくる瞳にそっと眼を閉じた。








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