小説2
□テノヒラ
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オレには恋人がいる。
年下の、それはそれは可愛い恋人が。
けれど。
仕事ばかりで恋愛などにはさっぱり縁の無かった 真面目さだけが取り柄の自分は、そんなシカマルに何もしてやる事が出来ない。
唯一した事と言えば、恥ずかしさからか涙目になって真っ赤な顔して小さな声で告白してくれたシカマルに「はい」と応えた事と。
シカマルの知らない所で同期や上司に牽制を打ったくらいで。
しかしどちらも自己満足に過ぎない。
しかもシカマルにYESの返事はしたものの、直接"好きだ"と伝えた訳でもない。
今だって、一緒に仕事をするはずだったゲンマが気を遣って2人っきりにしてくれているというのに、話しかける事すら出来なくて ただひたすら静寂な時間が流れていくばかりだ。
「(…オレのいくじなし…)」
心の中で深いため息を吐いて、ちらりと隣に座るシカマルの様子を窺ってみる。
オレとしてはこの気まずい空気の中、どう思いどう感じているのだろうか。
ポーカーフェイスお得意のシカマルから読み取れるとは思ってはいないが。
「(……睫、長いんだな…)」
間近で見て初めて気が付いた睫の長さ。
仕事に向かう瞳は真剣で、軽快に書類へ書き込むその指は細く長く とても綺麗で。
いつの間にかこちらの手は止まって、シカマルから目が離せなくなっていた。
話しかける事も出来ないくせに、シカマルとやりたい事は山ほどある。
一緒に 並んで帰りたい、とか
その手に触れてみたい、とか
小さな体を抱きしめてしまいたい、とか
整った唇に 白い首筋に、キスをしたいとか
もっと その先に、
進みたい だとか。
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