小説3

□最終電車
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『痴漢対策』


などというものは基本的に女性用に作られたものであって、男性にある『痴漢対策』とは『痴漢冤罪対策』となる。
つまり、男が男に痴漢された場合の対策など無いが等しく。
二度とないとは思うが 痴漢にあってしまった俺としては少し困った事になっていた。



「(対策がありゃどうにかなると思ったけど…)」



事前準備さえしておけば不安も軽減されるはずと対策を調べたが甘かったのかもしれない。
数ある対策の中で俺が出来るのは限られてしまっていた。

それでも電車に乗らなければ学校へは辿り着かない。
しかし未だに幻に対する恐怖感は消えていないのも事実。

携帯をぱくんと閉じ、少ない対策を抱えて 停車した電車へ乗り込んだ。



「……ふぅ、」



ドア付近はあまりいい場所とは言えないが、混雑する中どうにか壁側を確保。
壁に背を向け車内側に視線を向けるだけでも痴漢防止になるらしい。

はず、なのに。



「…………ッッ!!??」



やっぱり痴漢対策は男には効果がないのか。
いくら混雑していて密着していてもおかしくないといえど、まさか正面から堂々と手を出してくるとは思わなかった。
一息ついた所での出来事だったから振り払うとか睨むとかの行動も遅れ、すでにされるがまま手は身体を這いずった。



「…ゃ…」



"やめて下さい"
言葉すらもう出て来ない。
また同じように、何も出来ないまま唇を噛み締めて耐えるしかないんだろうか。

強く瞑った瞼の裏に浮かんだ、煙草をくわえて笑う人物の名前を、縋るように心の中で呼ぶしかなかった。




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