小説

□電車の災難
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はっきり言おう。
俺は満員電車がすごく嫌いだ。

なんでかって車両が人(特にサラリーマン)でいっぱいになるし 身体が密着するなんていつもの事だが それが汗くさいおっさんだったりしたら最悪だ。

朝の通勤ラッシュに我が儘言うなという話だが、高校生の俺は会社員に挟まれ理由もなく肩身が狭いと感じてしまうから。
女性専用車両とか羨ましいなぁ…とか感じながら、今日もまた満員電車に乗り込んだ。



「(……狭…)」



ドアの傍に陣取ったはいいものの、今日は人が多いのかぎゅうぎゅうと押し付けられる。
どうにか身体の向きを変え 外を向いてほっと胸を撫で下ろした。

その時だ。



「………!?」



最初はカバンか何かが当たってると思って さして気にはしなかったが、得体の知れないソレは唐突に尻を撫で回してきた。



「(…ッ嘘だろ…!)」



ダチからも言われていて 確かに男にしてはヒョロイとは思っているが、男子の制服を着てるわけだし いくらなんでも女と間違われているわけではないだろう。
僅かな期待にそっと振り向き、「俺 男なんだけど」と無言で訴えてみるが、後ろに張り付くおっさんは目が合うとにやりと笑った。

コイツ、男だってわかってて……!



「(……ち、ちくしょ…!)」



逃げようにもこのぎゅうぎゅう詰めの状態じゃ不可能に近い。
もぞもぞと動けば 相手が喜ぶだけ。
痴漢だと騒いでもいいが、男が痴漢されたなんて言えるハズもねぇし 言ったとしても自意識過剰だと馬鹿なガキに見られるだけだ。

どうしたらいい。
何が最善だ。

そうこう考えている内にも、おっさんの手の動きは過剰になる。
耳元で聞こえる汚い息遣いが気持ち悪い。

動けない俺に気をよくしたのか、おっさんはついに前へと腕を伸ばしてくる。
ヤバいと感じていながら、静かにパニックになった頭のせいで上手く身体が動かない。

いやだ。

触んな。

いやだ!



「……ッや め…!」



「いい加減にしとけよ、おっさん」



耳に届いた低い声に、ただ呆然とした。








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