エリはパンケーキを作っていた。
生地に生のブルーベリーを入れたもの。食べる時にはクリームチーズを添える。そして上からメイプルシロップをたっぷりかける。
彼女は甘い物は苦手だったがこれだけはいくらでも食べられたし、弟の大好物だった。
ブルーベリーが無いときはレーズンやクルミを入れ、チーズの代わりに砂糖を控えめにして泡立てた生クリームを添えても美味しい。
ところでなぜこんな物を作っているかというと、自分が食べるのではなく竜崎の為に作っているのだった。
先日、昼食としてこれを作って食べていたところ、キッチンに突然竜崎が現れた。
「何を食べてるんですか?」
「昼食です」
「そうではなくてメニューを訊いてるんですが」
「えぇっと……ブルーベリーパンケーキです」
「美味しそうですね。味見していいですか?」
「良いですけどコレは食べかけですよ」
「大丈夫です」
そう言うと彼は皿の上の食べかけ―――フォークに刺さった歯形のついたもの―――をパクリと食べた。
「美味しいですね。でも私はもう少し甘い方が好みです」と言いながらそばにあったメイプルシロップに手を伸ばし、残り三分の一枚しかないパンケーキにそれをたっぷりとかけ、手でつまんでからアーンと大口を開けて一口で食べてしまった。
呆気にとられていると、指についたシロップを舐めながら「お代わりはないんですか?」と聞いてきた。
「生地が残っているので焼けばありますけど……」
「じゃあ焼いて下さい。ここで大人しく待ってますから。あっ、ついでにお茶入れて下さい。食べたら喉が乾きましたよ」
そう言うと彼女の向かいの席に陣取った。いつものスタイルで。