篭の中の二人,本編
□四
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とある、教室にて──
「ゆーぎりクン、何ニヤけてるノ?」
「あれ、僕ニヤけてた?」
「うん。そりゃーもー気持チ悪……あーゴメンゴメン。愛瀬が悪かったヨー」
「分かればいいけど」
──とある、教室にて
ひいては2組にて
釣鐘夕霧と愛瀬絽香の、このコントじみた会話は日常茶飯事である
誰もがこの会話を耳にしてから授業(蝕も含)に挑む
─だがしかし、このクラスの生徒はまだ、"日常"には辿り着いてはいなかった
この会話にさらに何かしらのプラスがあって、始めて彼等の"日常"は完成する
最も、"ソレ"を"日常"と呼んでいいのかは微妙なところではあるのだが
「あ、凍月クンおはー」
──"彼"が
凍月泉がこのクラスに足を踏み入れたその瞬間
2組の"日常"が始まる
「やぁ、凍月くん。今日は昨日より36秒88,遅い登校だね」
「……それが何だってんだ」
「いつも言っているでしょ。僕に好敵手として認められたいなら毎日同じ時間に登校しろと」
「誰が、てめぇ如きの好敵手になりたいっつったよ」
2組の者は、理解っている
これが、あくまで序章に過ぎないという事
あと数秒もすれば、口喧嘩では治まらなくなるという事
─以上に上げた事が、"今日"の凍月泉に当て嵌まらないという事
「………本来なら今すぐに叩っ切るとこだが…今日は聞きたい事があるんでな」
「…へぇ」
"日常"が"非日常"に変われば
人は多かれ少なかれ騒ぐ
それは2組にも言えた事であり、突如訪れた"非日常"は、彼等を刺激した
──え、どういう事
──いつもならすぐに喧嘩始めんのに
──何これ、意味分かんない
そんなクラスの様子と、"非日常"の原因である二人を交互に眺めながら、"少女"は一人口元を緩ませながら
──あぁ
確かに、はっきり聞こえる声で呟いた
「今日、『蝕』が来るネ」
"少女"は
愛瀬絽香は呟いた
確かな真実と、明らかな悪意
「えっ…」
「あらら。残念だったね、凍月くん」
愛瀬絽香は招いた
釣鐘の"きっかけ"と凍月の"動揺"
「じゃ、頑張ってね、凍月くん。精々死なないように」
「ちょ…待って!釣鐘くん!」
「ま、戦えないんじゃそれも無理かな」
クラスが再びざわめきだす中、釣鐘は一人教室を出る
凍月は一人そこに佇む
愛瀬は…というと
「さて、3組にでも行コーカ」
それぞれが思い思いに動き出す
それは2組に限らず…──
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