短編小説
□カモンベイビー!☆
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「ジェ〜イド!!!!」
「……どうかなさいましたか? 陛下」
ジェイド・カーティスは、グランコクマにある、ピオニー・ウパラ・マルクト九世の私室を開けた瞬間にその中から抱きつかんばかりに飛び出してきた皇帝をスッと軽やかに避けた。
「ネフリーがぁ!! ネフリーがぁ〜!!」
皇帝の顔は、涙と鼻水でぐちょぐちょになっていた。
ジェイドの後ろにいたいつものメンバーは明らかに引いている。
「ネフリーさんがどうかしたのか!?」
だが挫けないひよこ頭のルーク・フォン・ファブレ。
「まさかまさか! 拉致されたりされなかったりされちゃったりしちゃったりして!?♪」
どこか楽しそうな黒髪ツインテールのアニス・タトリン。
「違〜う!! あれを見ろ!!」
ピオニーは、部屋の片隅に設置された豪華な豪華なベビーサークルのようなものを指差した。
「……?」
ルーク達は、恐る恐るそれに近付いてみる──と。
「プギュー、プギュー」
「ピー、ビー」
「プキャ、ブキャ」
「ブコッ、ブコッ」
そこには、首輪の様からして恐らくネフリーであろうブウサギと、小さな小さな仔ブウサギが四匹がいた。
「まさか……」
「これって……」
「ブウサギネフリーの……」
「──赤ちゃんですの?」
「……か、可愛い……vV」
ルークにアニス、ガイ・セシルにナタリア・L・K・ランバルディアは、ピオニー陛下の方を振り向いた。
仔ブウサギに釘付けになっているティア・グランツはこの際無視していいだろう。
「そうなんだよぉ〜!!;;」
ボロボロと泣き叫ぶ皇帝。
「それはそれは、おめでとうございます♪」
「おめでとうございます♪」
にっこりと笑うジェイドに便乗する天然ナタリアが、今は嫌味な悪魔に見える気がするのは気のせいだろうか……。
「ネフリーって、ブウサギのことだったんだな……」
ひっそりと呟くルーク。
「本物のネフリーさんのことだったら、びっくりじゃすまないかもな……」
ガイは苦笑しつつ、ピオニーの反応を盗み見る。
「ネフリーに四つ子!? そんなこと許すわけがないだろ!! 許さん!! 許さん!! 断じて許さん!! そんなことさせるかっ!!」
「あなたにそんな権限はありませんよ」
カッと目を見開いたピオニーにピシャリと言い落とすジェイド。
「ところで、お相手はどのブウサギなんですかぁ?」
アニスは、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「ま・さ・か♪ 大佐だったりしてぇ〜?♪」
「まあ! それは禁断の愛というものではありませんの!?」
「ナタリア、どこでそんな言葉を覚えたんだ……」
「ルークじゃなかっただけマシじゃな〜い? ナタリアは一応女の子なんだから〜」
「ま、まあ、な……;」
アニスの言葉に、苦笑が絶えないガイ。
「どういう意味だよ……」
ムスッと顔をしかめるルーク坊っちゃん。
「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいからさ、ホントのとこ、どうなんですか陛下〜」
全員(ティア以外)の視線がピオニーに集まる。
彼は、拳を白くなるほど握り締めて俯いていた。
「……この際……ジェイドの方が……良かったのかもな……アスランでも……まだ許せたのにな……。……なのに……それなのに……どうして……どうしてなんだっ……!!」
ジェイドでもない、アスランでもない……ということは、残るは三匹。
しかし、ルークはまだ新入りの子供ブウサギ。
ゲルダはメスだから問題外。
……ということは……。
「「「「「…………」」」」」
((((ま、まさか……!!))))
「どうしてサフィールを選んだんだっ!! ネフリー!!」
──サー……。
ルーク達は顔から血の気が引いた。
仔ブウサギを微笑ましそうに見ていたティアはサッとその場から後退し、ジェイドに至っては素晴らしいほど鋭利な殺気を発している。
「あ、あああああああああああああああのっ……そそそそそそのっ……」
うまく歯の根が合わないアニス。
「しょ、所詮はブウサギの話ですわ……!」
「そ、そうだよな……ブウサギなんだよな……」
「ネフリーさんが……ディストの子供を──うぐっ!?」
ガイは光速の如くルークの口をその手で塞いだ。
やめろ!!
やめてくれルーク!!
お願いだから余計な発言はしないでくれ!!
殺されたいのかっ!!
ガイは、今にも秘奥義を連発しそうなジェイドの殺気に泣きそうになった。
「……み、みんな、変なこと考えすぎだよ! たまたまネフリーっていう名前のブウサギとサフィールっていう名前のブウサギとの間に子供ができちゃっただけなんだからさぁ!!」
アハハハハ、と、渇いた笑いをするアニス。
「そ、そうですわ! 名前が気になるのでしたら、今から変えたってよろしいのですから!」
その言葉を聞き、ピオニーはハッと顔を上げた。
「──そ、それだ!! サフィールの名前を変えればいいんだ! よしっ、サフィール! お前は今日からピオ──ギャアァァッ!!」
暴走しそうだった皇帝は、突如その身に降り注いだ電撃に悲鳴を上げた。
ジェイドがサンダーブレード(弱)を落としたのだ。
「馬鹿馬鹿しいですねぇ、たかがブウサギごときに」
フッと口元に笑みを浮かべるジェイド。
大佐、目が笑っていませんよ……。
っていうか一番怒ってんの大佐じゃん……?