☆怪盗☆美少女三姉妹vV

□δ第1章δ〜平和な光に悪の影〜
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「……ふぁ〜……毎日退屈だなぁ〜……」

ここは、キムラスカ・ランバルディア王国のバチカル市街にある、ファブレ公爵邸の無駄に長い廊下。

その廊下を気だるそうに歩きながら、燃えるような赤髪をくしゃくしゃと無造作に掻き毟った少年は、欠伸を一つ漏らし、そうぼやいた。

「よく言うぜ。しょっちゅう屋敷を脱け出しては、闘技場に遊びに行ってる奴がよ」

そう、皮肉混じりにツッコミを入れたのは、少年の隣を歩く金髪の青年。

「だからって、屋敷の中にいる時はつまんねぇだろ。寝る時と飯の時以外はずっと勉強だしよ……。あんなもんのどこが面白いんだっつーのっ! ガイだって勉強尽くしの生活なんて面白いと思わねぇだろ!? 楽しいと思わねぇだろ!?」

「まあ確かに、好んでしたい生活とは言えないが……まあ落ち着けよ、ルーク」

「だいたいなんで伯父上は俺を屋敷に軟禁なんかすんだよっ! 俺はもっと自由がいいんだよ、自由が!」

日々溜まり続ける鬱憤を吐き出す少年──ルーク・フォン・ファブレ。

「昔のこともあるし、それも全部お前のことを想っての言いつけなんだよ」
(お前を軟禁してるのは、ほとんど奥様の意思なんだけどな……)

そしてそれを、苦笑を浮かべながらさらりと受け流そうとする使用人──ガイ・セシル。

「これのどこが俺のこと想ってるんだよ! 俺はこんな肩身の狭い生活は望んでねっつーの!」

「なら、お前はどんな生活を望んでるんだ?」

その言葉に、ルークは一度足を止め、腕を組んでその場で考え込む。

ガイも自然と足が止まる。

「そうだなぁ……。とりあえず、軟禁は解いてほしいよな。俺が外に出たい時はいつでも堂々と玄関から出られて、門限無しで、護衛も無しで……。あっ! っていうか俺、ヴァン師匠がいる神託の盾騎士団っつーのに入ってみたいんだよな♪」

神託の盾騎士団というのは、ダアトという都市が有す軍隊組織のことであり、ルークの言うヴァン師匠──もといヴァン・グランツは、そこで主席総長を務める、ルークの剣術の師である。

「……ルーク、それは一生無理だと思うぞ」

苦笑いにもどこか爽やかなところがあるガイは、こめかみの辺りをぽりぽりと掻いた。

「な、なんでだよっ!?」

恐らくたくましいであろう腹筋を露にしているルークは、大仰に驚く。

「この間、剣術の稽古中にお前が少〜し手のひらを擦りむいた時の奥様の反応、憶えてないのか?」

「え……」

一週間ほど前だったろうか。

ヴァンがいないにも関わらず、剣術の稽古がしたいと駄々をこねるルークに、仕方なくガイが稽古をつけた時のことだった。

うまく受け身が取れず、ルークが豪快に尻餅をついた時に、同時に地面につけた両手のひらの皮が少し擦れてしまったのだ。

それをたまたま目撃したルークの母──シュザンヌは、一瞬で顔色を真っ青にし、一刻も早く病院に連れていけだの、街で一番の腕利き医師を呼べだのと言い出し、屋敷中を大混乱へと陥れた。

「…………;」

「あんなことでも大騒ぎするお方なんだ。お前が軍隊に入りたいなんて言った暁には……部屋から一歩も出さない監禁状態にしてまでも反対するぞ」

ガイは、はっはっは、と気さくに笑い、腕を組む。

主従関係に多少は縛られているものの、今この時のように二人きりで話している時のガイは、敬語も使わず、普段なら失敬と思われる態度も遠慮無く表に出す。

「……母上は、心配し過ぎなんだよ……」

「それも親の愛だと受け止める広い心は無いのか?」

「無い」

「おい!;」

迷いの無いルークの返答に、ガイはずっこけそうになる。

「わかってるんだ。母上が、本当に俺のことを想ってくれてるっていうのは……。俺がちょっと屋敷を脱け出しただけでも体調崩して寝込んだりしてさ……。でも──」

「ちょっと度が過ぎてる、って言いたいんだろ?」

薄く笑みを浮かべながら言葉の先を取った使用人に、ルークは赤髪を揺らしながら小さく頷く。

「歪んだ愛情……っていうのかな?」

「それとはまた別もんだろ。別に歪んじゃいないさ」

まだ浅知恵が目立つ発言が度々みられるお坊っちゃまの口から、思ってもみない言葉が飛び出したことに驚きつつ、小さく鼻で笑う。

「でも、母上の愛情は人が受け止めきれる度量を越してると思うんだよな……。だから、その……えっと……」

バンッ!!

不意に、グッと拳を握ったルークの背を、ガイが思いっきり叩いた。

「いてっ!! いきなり何すんだよっ、ガイ!!」

「……歩け」

「は?」

ガイの意図が全く読めず、その場でただ呆然と立ち尽くしていると、再びガイの手のひらがルークの背を打った。

「いってぇ〜!! だから何なんだ──」

「さっさと行かねぇと、奥様が機嫌を損ねるって言ってんだよ」

そう言うと、主人をぶった使用人はスタスタと歩き始めた。

「あ……」

そういうことか、と、ようやく合点がいったルークは、ヒリヒリと痛む背中を押さえながら歩き出す。

いま二人は、ファブレ公爵とその夫人が待つ居間に向かっていた。

ルークが朝食をとる為だ。

「──だけどよ、ちっとは親孝行っていうのも考えろよ?」

「わかってるって……」

そう言い、両手を頭の後ろに回す。

(まあ、もしダメだって言われても、またこっそり脱け出せばいいし〜)

「……先に言っとくが、もしダメだって言われても脱走するなよ」

「え゙;」

無駄に鋭い使用人、もとい親友。

「……おい、お前まさか……」

「さってと! さっさと飯食って母上を説得するか!」

逃げるように突然走り出すひよこ頭。

「おい、ルーク! 後で叱られるこっちの身にもなれよ!」

「じゃあ俺が逃げ出す前に阻止すればいいだろ〜! ……ま、捕まるつもりはねぇけどな♪」

そう言い残すと、ルークは颯爽と居間の中へ飛び込んでいった。




「……この脱走犯め……」

残されたガイは、自嘲気味に笑みを浮かべると、どこか諦めたように溜め息をついた......



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