†本棚†
□Halloween
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黒の教団にある食堂。
厨房の奥にはコック達のみが出入りする扉がありその扉を開けると裏庭に繋がりそこには料理の食材に使われる為の小さな野菜栽培園がある。
今、その裏庭では何かを削る音が断続的に聞こえていた。
「……こんなものかな…?」
黄緑色の芝生の上で胡座をかき首を傾げある物を見つめていたアレンはうーん…と唸りながら呟いた。
「案外、難しいなぁ…」
―ピエロをしてた頃にはよく被ってた物なのに…―
「うーん…もう少し削った方がいいかな…?」
「アレンちゃん」
「あ、ジェリーさん!」
背後から声を掛けられ首だけを振り向けば扉を開けた料理長、ジェリーがニコッと笑い自分を見ていた。
「どう?調子は」
「それが意外に難しくて…苦戦中です」
苦笑しながら答えるとジェリーはティーセットを片手にアレンの隣にしゃがみ込んで来た。
「ちょっと休憩してお茶でも飲んだら?みたらし団子を作ったの」
「わぁ!ありがとうございます!!」
差し出されたみたらし団子とお茶を見るとアレンはパァッと明るい表情をし手にしていた果物ナイフと綺麗なオレンジ色をしたカボチャを芝生に置きジェリーの方へ向き直した。
「はい、どうぞ」
「頂きます!!」
こってりと蜜の付いた団子の串を取ると大きく口を開き被りつきアレンはふにゃと幸せそうな表情をした。
「ん〜〜ひゃあわふぇ〜〜」
美味しそうにみたらし団子を頬張るアレンの姿にジェリーは小さく笑うと今までアレンが格闘していたカボチャに目を向けた。
「茹でると柔らかくなるんだけどカボチャってホント硬いのよねぇ」
「そうなんですよね〜」
湯飲みに注がれたお茶を手にし口の中の団子と一緒に飲み込むと頷きアレンもカボチャに目を向け
「でもカボチャのくり抜きとか懐かしいです。
僕、昔ピエロをやってたんですけど練習の合間を縫ってよく養父(ちち)にカボチャのくり抜き方を教わってたんですよね」
「あら、そうなの?」
「えぇ…」
アレンは懐かしそうにカボチャを見つめふと脳裏に養父、マナと肩を並べ地べたに座り込み楽しそうにしながら喋りカボチャの目と口をくり抜くマナの姿が映っていた。
「養父はとても器用でこう言う作業も直ぐにこなせる人でしたから。僕はそんな養父を尊敬し養父の様なピエロになりたくて必死でした。
だから養父のする事はずっと横で見てそれを見様見真似でやっていたものです」
「そうなの〜よっぽどその義父さんが大好きだったのねアレンちゃんは」
「えぇ。大好きで尊敬、出来て誇りに思える人でした」
懐かしい思い出にフッと笑うとアレンは最後の団子を食べ指に付いたタレを舐め取り立ち上がった。
「さてと、お腹も満たされたしもう一踏ん張り頑張ります!」
「悪いわね、せっかくの非番に手間の掛かる事させちゃって」
申し訳ないわと気の毒そうに謝るジェリーにアレンはニコッと笑い首を左右に振り
「いいんですよ、ジェリーさんにはいつも美味しい料理を食べさせて貰ってるからこれ位、しなきゃ罰が当たります。
それにジェリーさんには他にも仕事があるでしょう?」
これ位の事は任せて下さいとアレンは言いジェリーもニッコリ笑いティーセットを持ち立ち上がり
「ありがとうアレンちゃんやっぱり優しいわねぇ〜神田なんかにあげておくのが勿体無いわ」
「!!////」
神田と言う名を聞くとアレンの顔は見る見るうちに赤く染まり
「か、からかわないで下さいよジェリーさん!!!///;」
明らかに焦りだしたアレンの姿にジェリーはクスクスと笑うと踵を返し扉に向かい
「ま、ともかく続けてお願いねアタシは厨房に居るから出来上がったら教えて頂戴」
「あ、はい!///」
宜しくねと言いジェリーは厨房へ戻り扉が閉まるとアレンは小さく息を吐き再び芝生に座り込み膝にカボチャを乗せ見つめた。
「…もう一週間か…」
アレンは指を折り神田が長期の任務に駆り出されて早、一週間が経っていた事に今になって気付きポツリと呟くと目だけがくり抜かれたカボチャをジッと見下ろしそっと丸いラインを指先でなぞった。
「…今日には帰って来れるかな…?」
脳裏に漆黒の長い髪と瞳が写るとアレンは無性に逢いたい気持ちに駆られギュッとカボチャを腕の中で抱き締めた。
「早く…」
―早く帰って来て下さいよ…神田―
「おーいアレン!そっちは終わったさ?」
「!!;」
急に開け放たれた扉の向こう側からはラビが現れカボチャを抱き締めているアレンの姿にキョトンとした。
「…なにやってるんさアレン?;」
「あ…いや、その…///;」
アレンは口ごもり苦笑いをし慌ててカボチャを芝生の上に置いた。
「そ、それより何か用事ですか?」
「あぁ、こっちの作業は終わったんかなぁって思って様子見に来たんさ」
「もうちょっとです。今、最後の一個を削ってた所なんです」
そう答えアレンはカボチャにナイフを刺すと逆三角形にくり抜きラビは隣にしゃがみ込みその作業を見つめた。
「相変わらず器用さねぇアレンは」
「そうですか?よし、出来上がり!」
出来上がった顔に満足し他のカボチャと並べるとアレンは目を細め
「出来ましたよラビ」
「よしっじゃあ早速、持って行くさ」
「はい!」
二人は作ったカボチャを持つと中へ入って行き中華鍋を持ったジェリーが振り向き
「あら、出来上がったの?」
「はい!あ、これ食堂で飾る分のカボチャです。置いておきますね」
「ありがとうアレン早速、飾っておくわね」
「はい!」
「大聖堂でやるんでしょう?後でお料理とお菓子を持って行ってあげるから」
「ありがとうございます!!」
「アレン、行くさ」
「あ、はい!じゃあジェリーさんお邪魔しました」
「いいのよ〜ホント、ありがとうね」
「いいえ!それじゃ」
「また後でね」
手を振るとアレンはラビと共に食堂を後にし廊下を歩き
「んじゃあ俺は西の方から回って置いて行くからアレンは東の方から頼むさ」
「分かりました、大聖堂で落ち合いましょう」
「了解さ」
じゃあなと言いラビは大量のカボチャを持ちアレンとは逆方向を向かいだしそれを見送るとアレンもカボチャを持ち直し歩き始めた。