‡小話‡
□誘い
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「………」
二人が付き合い始めて早、数ヶ月。
アレンは神田と共に夜を過ごす事が多くなった。
それは互いの身体を重ねると言う意味で
勿論、ただ単に一緒に眠るだけと言う日もあるがどちらかと言うとそう言う事情の日の方が多い。
夜になりアレンが神田の部屋へ行けば神田はそれを断る事は無くぶっきらぼうに返事しながらも内心、快く応じている。
今夜も部屋に行けば神田は『入れよ』と言い二人で眠るには少し窮屈なベッドに上がり愛刀である六幻の手入れをしていた。
アレンは『お邪魔します』と言い部屋へ入ると図書室から借りていた本を片手にベッドへ潜り込みヘッド部に背中を凭れ読書をしていた。
普段なら暫くそうやってそれぞれの時間の潰し方をし睡眠に就く。
もしくは神田からアレンに寄り添い事情の始まりを合図する優しいキスをして来る。
しかし最近、アレンは不安に感じていた。
いつも事情の始まりを告げるのは神田から。
自分から神田を誘う事などした事が無い。
いつも流される様にキスを返し返事に応え身を捧げる。
神田はそれを何とも思っていないのだろうか…?
自分はただ性欲を満たす為の尻軽な奴だと思っているのでは無いだろうか…?
そう考えるとアレンは不安になり胸を締め付けられる様な感覚に陥った。
そう思われない様にする為にも…
自分だって神田が欲しくて仕方が無い事を分かって貰う為にも…
今夜は自分から神田を誘わなければ…!!
そう決意しアレンは神田の部屋へやって来た。
「…………」
―と決意はしたものの…実際になるとどう誘えばいいのか分かんないよ…;―
アレンは持っていた本に目を落としながらも全く文字を読まずチラリと盗み目に神田を見ていた。
隣で六幻を見つめ丁寧に手入れを続ける神田の横顔はとても綺麗で女性なら勿論、男である自分ですら見とれてしまう程だ。
「………///」
スラリと長く綺麗なあの指が自分の肌に触れ唇が吸い付いて来る。
そう思うとアレンはふと事情の事を思い出してしまい思わず生唾を飲み込んだ。
「…何だよ?」
「へっ?///」
漆黒の瞳がこちらを向き視線がぶつかればアレンは裏返った声を出してしまい
「なにジロジロ人を見てんだよ?」
「い、いえ!別に何でも無いです!!///;」
「………?」
パタパタと手を左右に振り苦笑いするアレンに神田は小さく首を傾げながら再び六幻へ視線を落としアレンは本で顔を覆いゆっくり溜め息を着いた。
―うぅ…今、絶対に変な奴って思われた…;どうしよ…;―
恋愛に関してもそういった行為に関してもアレンには知恵も情報も不足している。
自慢じゃないがこの約15年間、恋愛をした事もそういった行為を誘った事も無い。
修行時代に自分の師が何度か女性を連れ込んでいるのを目撃した事はあるがそれは既に完全、お持ち帰りした後でどうやってその女性をオトしたのかは知らない。
こんな事なら師匠にそっちの事も聞いとくんだった…とアレンはガックリと肩を落とし再び深い溜め息を着いた。
―まぁ聞いた所であの人が素直に教えてくれるなんて思っちゃいないけど…;―
もし、仮に聞いたとしても『遂にお前にも春が来たのか?』と言いながらからかわれるか
『お前みたいなまだケツも青いガキには早い』とか言って馬鹿にされるのがオチだ。
そう考えると皮肉に近い嫌な笑顔を見せながら自分を見下ろして来る師の顔が脳裏に浮かびアレンは顔を引き攣らせた。
―あんの節操ナシ顎ヒゲ師匠…―
今の状況とは全く関係の無い師に逆ギレを起こしていると神田は六幻を壁に凭れ掛けアレンはハッと我に返り神田を見た。
―い、言わなきゃ!何か…神田をその気にさせる様な…言葉を!!―
自分に全く触れて来ない所を見ると今夜はヤる気は無いのだと見たアレンは焦り
「あ、あの神田!!;」
「あ?」
六幻を置いた神田が振り返るとアレンは神田を見つめ口をパクパクさせ
「…あ…あの…ですね…;///」