‡小話‡
□Beat
1ページ/2ページ
トクン…トクン…
人間は相手の鼓動を聞くと落ち着くと言う。
それはまるで自分が生まれる前、母体の中に居た頃に聞いていた音に近いからだそうだ。
だが俺には母親なんていないしそんな所から生まれた訳じゃない。
俺は生まれて来たのでは無く造られて来たモノだから。
『あの人』と再び逢う為に生きる。
『あの人』との約束を果たす為に生きる。
その為の器に過ぎないからだ…この体は…。
けれど最近、この鼓動と言うものが少し気に入って来た。
「…………」
真夜中、目を覚ました神田はボーッとし前を見ると自分と同じく真っ裸ですやすやと規則正しい寝息を立てるラビの姿が写った。
「スー…」
「………」
ラビは自分を抱き締めたまま眠り起きる気配は無い。
―俺はコイツの抱き枕か?―
布団の上から置かれている腕が邪魔に感じ退けようと身じろぐと腰に激痛が疾り神田は動くのを止めた。
―この野郎…また散々ヤりやがって…―
起きたらただじゃ済まさないと眠るラビを睨み付け神田は息を吐くと布団を被り額をラビの胸に押し当てた。
「…………」
ジッとその胸を見つめると恐る恐る腕を伸ばしそっと指先で胸に触れてみた。
「………」
起きてしまうだろうかと見上げるがラビは未だ規則正しく寝息を立て眠っている。
それを確認すれば神田は布団の中で更に身を寄せ今度は胸に耳を当ててみた。
トクン…トクン…
寝息と同じく規則正しく聞こえる鼓動。
まるでそれは何かのメロディーを奏でている様で神田は不思議と落ち着くのを感じた。