short*over

□☆溢れる内声
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「ほら、行ってきな」


ヒロトに背中を押され俺はマンションのエントランスへ歩いて行った



「………」



どうしよう、どうやって謝ろう


エレベーターに乗りながら考え込んだ


きっと風介は深刻な状態だろう

でも俺は、貶されようが殴られようが謝る



それで償えるとかそんな事は考えていない


風介に、会いたい



「…………」

チャイムを鳴らすと



「は………い……」




愛しい風介が



「風介………!」



俺の顔を見た瞬間



「うわ!!」



悲鳴を上げ



「ぶっ!」


ドアを閉めようとした

「何、何しにきたんだ?」

足で何とかドアが閉まるのを阻止すると風介は俺を睨んできた



「風介に、謝りたくて……来た」

「詫びなんかいらないよ、今は一人にさせて」


「嫌だ……」

ああ、俺の感情が

「え?」

溢れて溢れて

「嫌だって言ってんだ!!」

叫んでしまった



風介のドアを閉めようとする手の力が緩み、風介の顔が見えた


「風介………」

「晴…矢………?」



ずっとずっと見たかった

風介の顔


今は何だか疲れた表情をしていた


目尻も赤く腫れていた

ずっと泣いていたんだろうか





ズキン



胸が痛んだ



「ゴメン…………」


頭をその場で下げた


「……………」

何も言って来ない




「あと、俺と風介の子供」

「堕ろすんでしょ……」


「産んで……くれ……」


言ってから、恐る恐る顔を上げた


風介の綺麗な顔がグシャグシャに歪んでいて


「嘘………」



「嘘じゃない………」



「だって!あの時はさ!産むなって!言ってたのに……」



「今は違う!お願いだから……」



沈黙の後に



「い、いの……?産んで、いいの…?」

泣きそうな自分が居た



「産んで、産んでくれ……俺等の為に、子供の為に」



風介の頬には溢れた雫が伝い、自然な笑みが浮かんだ


「風介…………」



「ぁ………良かった……良か……う、ぅぅ……」



「俺はお前と一緒に老けたい」



風介はいきなり大爆笑を始めて、ビクッとした




「言い方悪いって……そういうのはさ、人生一緒に歩みたいとか……」



ああ、何だこの会話

でも嬉しい




「風……ちゃん……!」


「あ…リュウジ……うわわ」


気づいたらヒロトとリュウジは階段の角から覗いていた


目の前でリュウジに押し倒されている風介が居た


「世話焼けるねー本当に」
「すいませんでしたー」

「真面目に謝ってないだろう?」



「風ちゃん、良かったね…良かったねえ……!」


「ゴメンねリュウジ……心配掛けたみたい」

「風ちゃん…頑張ってね」

「うん…………」




一番最終的に浮いてるの俺なような気がしたが、黙って風介を見つめていた





********







新しく生まれた、高い泣き声










新しく生まれた、小さな体













汗だくの彼女を抱き締め










「よく頑張った」と微笑んだ








end
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