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□はんぶんこ
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私たちは今アカデミーの本部を探るためにまず、海を渡るための移動手段として“ホバークラフト”を手に入れなければならない
そしてそのホバークラフトはここ、カリオテ洞窟にあるわけで。
「うわっ、また爆発した!!」
「こっちは槍が飛んできたわよ!」
「皆気をつけろ、モンスターが来るぞ!」
そう、ここの洞窟はやたらとトラップが多い
まあ、貴重な大災害前の乗り物だからこそ、防犯対策がここまで厳重なのは分かるが…
それにしてもすごい数のワナだ
おまけにモンスターも今までにないくらい強い
皆すでにキズだらけで、回復魔法のキュアや、アイテムの薬草だって、この洞窟に入ってから何回使ったか分からない
前衛で戦うアレクやヴェルハルトなんかは特に怪我が多く、ところどころ血が流れていて見ているのも痛々しかった
このままでは皆、ホバークラフトを手に入れる前に死んでしまうんじゃ…
悪い予感が脳裏を過ぎる
「みんな、大丈夫か?
…ちょっと休んだほうが良さそうだな」
少し視界がひらけたところに出て、アレクが皆の様子をぐるっと見回して休憩を促す
みんな疲労の色が濃く、全員が全員、その言葉に賛成をした
「敵の気配もなさそうだし、体勢を立て直すにはちょうどいいね」
座るのにちょうど良さそうな石を見つけて、そこに腰掛ける
そのとなりにルッツが座ってきて、ほい、と魔法のリンゴを渡してくれた
「あー…それにしても全然見つかんねぇよなぁ、ホバークラフト。」
「そうだね…、だいぶ奥まで来た気がするけど…まだもうちょっと先にあるのかも。
なんにせよ、ここにあるのは間違いないんだ、探すっきゃないよ」
渡されたリンゴをしゃくっとかじりながら、力無く石ころと砂しかない灰色の地面をただぼうっと見つめる
疲れすぎて、顔をあげるのも面倒だった
それはルッツも同じなようで、いつもの口喧嘩をすることなく隣で静かに目を閉じて座っている
「………あんたは、食べないの?」
ふと気づいたのだが、私や他の仲間たちは、渡された魔法のリンゴを食べているのに、こいつだけ何も食べてないのだ
「俺はいいよ」
「どうして」
「俺はあんまし魔力減ってねーからいいの」
嘘だ。
だって、今までの戦闘でナイフレインを何回か使っていたのを見たし、イクサイトメント等の補助魔法だって使っていたはずだ
魔力が減っていない訳がない
コイツはきっと、自分の分を削ってみんなにアイテムを配ったんだ
「……………ナイフ貸して」
「え?ナイフ?」
「そう、ナイフ。
ちょっと貸しなさいよ」
頭に疑問符を浮かべるルッツはお構いなしに、ルッツの腰元にくくりつけてあるナイフを自ら強引に引き抜いた
すぐ脇で何するんだ、と言う驚きと疑問が混じった声が聞こえたが、構わず私はそれを無視する
そして手元にある食べかけの魔法のリンゴを、鈍く光る銀色のナイフで半分に割った。
「はい、ルッツ」
口をつけていない、綺麗に割れた方をルッツに差し出す
「………魔力減ってねーから、いらねえ」
けれどルッツは、半分のリンゴを受け取ろうとしなかった
こういう時だけ、なんて頑固者なんだろう
と、その時
すぐそばで、ぐうう、となんとも間抜けな音がした
ルッツの腹の音だ
「ぶっ…!」
おかしくて思わず笑いの声が漏れる
「っはは…!アンタ、魔力は減ってないって言ってても腹は減ってるみたいね?」
「う、うるせー!!
なんだよ、人がせっかく我慢してたのに…!」
「あたしにそんな見えすいたウソつくからだよ。
ほら、つべこべ言わずにさっさと食べる!あんたがいざってときに戦えなかったら、困るのはみんななんだからね」
結構頼りにしてるんだから、と心の中でそっとつぶやく
半分こにした魔法のリンゴ
みんなといっしょに食べるとおいしいね、なんて良く耳にする安いセリフが、柄にもなく一瞬浮かんで消えてった。
END
ルッツとシェリル以外がすごく空気…!すみませんorz