ss

□bluff
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新しい街にやってきて、いったん宿で一息ついていたら、アイテムや使えそうな武具を調達してきてくれないか、とアレクに頼まれた


アイテムに詳しい俺と、ウェポンに詳しいシェリル


二人で買い出しに行くのが最近の習慣になりつつあった


だから、今回も俺とシェリルは、二人で街の道具屋に向かった






それが今から5時間前の話だ






そして今



「おーい、シェリルー…
どこいったんだよ〜」





…俺は迷子だったりする



道具屋で買い物を済ませた後、はぐれた…というより

置いていかれたのだ、シェリルに。鬼だ。


買い物を済ませ、さぁ、あとは帰るだけだというときに俺とシェリルはいつものごとくケンカしてしまった


怒ったシェリルはこの街の地図を持って一人でさっさと帰ってしまった

帰り道を覚えていない俺は、慌ててシェリルの後を追うも
結局人混みに紛れたシェリルを見失ってしまった訳で、今に至る


テオくらいの歳ならまだしも、この歳で迷子とか恥ずかしすぎる
道を訪ねようにも、くだらない見栄が邪魔をして人に聞く気にはなれなかった
本当にヤバくなったら、その時に最終手段として人に聞けばいい
まだ大丈夫、なんとかなる






とりあえず、この人混みの通りを真っ直ぐ行けばいいのか、あの曲がり角を右に曲がるんだったか、左の小道に入るべきか…


今自分がどこにいるのか

さっぱり覚えていない自分の記憶力は、呆れを通り越して見事なまでにすがすがしい

宿に帰ったらアレクたちから馬鹿にされるだろーなぁ…
イヤ、主にシェリルからバカにされるか

宿に帰ったら、確実にシェリルに怒られているであろう自分が目に浮かんだ




























(うええぇぇぇ、マジで宿どこだよ…!)



しばらく歩き続けたが、いっこうに宿は見付からず



最終手段の切り札で、人に道を訪ねようとした頃にはもう空は薄暗く、人通りもほとんどなくなってしまっていた


(やべ…、これは確実に迷子だよなぁ…)


頭をかきながら、深い藍色の空の下をとぼとぼと一人歩く
頭上を見上げれば、星がちらほらといくつか輝いていた















そういえばケンカのきっかけってなんだったんだっけ…

確か、店に置いてあった銃にシェリルがここがダメここが良いとか言ってて
でも俺はよく分かんなかったから「んなもんみんな同じじゃん」っていったらシェリルがいきなり怒りだしたんだよなぁ

わけわかんねー…

んでああだこうだって言い争いになって置いてかれたんだっけ

つーかシェリルは些細なことで怒りやすいんだよな

しかもなんかやたらと俺にばっかりつっかかってくるし






悶々とシェリルに対する不満が頭の中で次から次へとあふれでてくる


なにも地図まで持っていかなくたっていいじゃねーか


自分が迷子になったのはシェリルのせい、と最終的には都合の良いように決めつけて

宿に戻ったらシェリルに文句をいってやろう

そう心に決めて、ルッツは知らない道を勘で左に曲がった




「ちょ、なにすんのさ!
それはアンタ達が持ってても、何の役にも立たないって言ってるだろ!
ろくに銃も扱えない人間があたしの銃に触るな!」





どこかから聞き覚えのある声
幻聴だろうか、今まさに頭の中にイメージしていた人物の声と一緒だ


「やっ…やめろってば!!!」


(あれ…シェリル??)



声が聞こえてきた方の、すぐそこの路地を覗き込んでみると、そこにはなんと男三人に絡まれているシェリルの姿があった



(おいおいおい、なーにやってんだシェリルのやつ…?
あれくらいお前なら軽く叩きのめせるだろ〜)



モンスターだって一発KOのシェリルだ


手助けはいらないだろうとただ傍観していたのだが、今回はそういう訳にいかないことに気付いた

男の手に、どういう訳かシェリルの銃が握られていたのだ


しかも、シェリルの両手は先ほど道具屋で買った紙袋を抱えているため塞がっている



それをいいことに二人の男が逃がさないようにシェリルの両サイドを囲んでいた

背後には灰色の壁しかなく、逃げ場はない


両手を荷物に塞がれ、銃は奪われ、抵抗ができず逃げられない状況


これはもしかして
もしかすると…


ピンチ、ってやつ??
助けに行った方がいいか一瞬迷ったが、頭より先に体が動くらしい俺は、気付いたら既にナイフを投げていた


一本のナイフが、銃を持った男の腕に突き刺さる

どしゅ、という鈍い音が聞こえたと同時に、男の手から血と一緒にシェリルの銃がカシャンと滑り落ちた

「なにやってんだよシェリル!」

「ルッツ!?」

俺に気付いたシェリルが驚いた顔でこちらを振り向く

それと同時に、シェリルを囲んでいた二人の男たちの注目が、いっせいに俺へと向けられた

「なんだこのガキ…」

「子供はさっさと家へ帰れよ」

「帰りたくても帰り道がわかんねーんだっつーの!」

情けないが、本当のことで
胸を張って高らかに自分は迷子だと宣言した



「おいおい小僧、あんまりふざけるんじゃねぇよ
今なら見逃してやるから、痛い目に合いたくなかったらさっさと失せろ」


リーダー風の男が、睨みをきかせながら俺を脅す

脅しているつもりなんだろうが、全く怖くなかった


「へえー?
言っとくけど俺、けっこー強いよ
オッサン達こそ返り討ちに合う前に早く逃げた方がいいんじゃねーの?」

「なにいってんだコイツ、バカにしやがって…!」


頭に血が昇った一人の男が、殴りかかろうと走り寄った


が、殴りかかるにはあまりに距離がありすぎて、男のスピードは遅すぎた



「ナイフレイン!」



ルッツのその名のとおりの、ナイフの雨が男たちを襲う


一瞬で空から大量のナイフが降りかかり、男たちの皮膚を引き裂いた
一応手加減はしたつもりだが、それでも男達にとっては相当なダメージだったようだ
灰色だった地面は、今ではうっすらと赤く染まっている
男達は地面にうずくまり、苦痛に呻いた



だから、早く逃げた方がいいんじゃない?って言ったのに


そう思いながら、男達の間抜けなサマを余裕の笑みで見おろす

男達は観念したのか、怨めしそうに顔を歪めながら逃げていった












「…………」

「おーいシェリル、大丈夫か?」

男達が逃げ去ってから

さっきからずっと壁に背中をあずけ、地面に座り込んでいるシェリルに声をかける

放心状態だったのか、ハッとした様子でシェリルは慌てて首を振った

「だ、大丈夫に決まってるだろ!
あんな奴ら、アンタが助けに来なくたってあたし一人でなんとか出来た!」


なんとまあ、素直じゃないシェリルらしい反応といいますか

せっかく助けたのに、礼の一つもなしかよ

俺はおもむろに、両手でシェリルの左手と右手を、壁に押さえ付けた



「?? ルッツ、なにして…」



「抵抗してみろよ」


は?と疑問に首をかしげるシェリル


「さっきとおんなじ状況だろ?
囲まれちゃいねーけどさ、銃がなくて、手が使えなくて。
そんな状況でどうやって逃げんだよ?」


だから、試しに抵抗してみせろと


「な…ちょっと…」


シェリルがぐっと力を込めて腕を動かそうするが、俺が押さえ付けてるから動かせるはずもなく

しばらくの間“抵抗ごっこ”は続いた

「は、離して!」

早くもシェリルが音をあげる

そこでようやく俺は、押さえ付けていた腕をパッと放した

「ほーらな、やっぱ抵抗出来ねーじゃん」

「…うるさい!隙を見て逃げるつもりだったんだよ!!」


そういってシェリルはいつものように怒鳴る



いくら銃の性能が良くて、狙撃の腕が良くたって、結局はシェリルだって普通の女と変わらない

力じゃ、どうしたって男に敵わないのに


「あーあ、せっかく助けてやったのになー」


「誰もあんたに助けてほしいなんて頼んでない」


「へいへい」



この時はじめて

いつも強がってばかりで
素直じゃないお前を、

守ってやりたいと思った


なんて









そんなこと、
言えるはずもなく











END

なんだこれ
とりあえず王道で、乙女のピンチに駆け付けルッツを書きたかった
路地裏ロマン^^^^

補足:チンピラ3人衆はたぶんカツアゲ目的でシェリルを連れ込んだと思いまつ

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