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□別室のきみへ
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◇ルッツ視点










特にすることもなく宿のベッドにねっころがっていたら、どこかから、かすかに女性の歌声が聞こえた




歌というより、ただのメロディといったほうが正しいかもしれない




歌詞のない、ただの鼻歌だ




そのメロディは、つい最近知った曲だった




親友でありハンターであるアレクの、とあるギルド仕事がきっかけで知ったあの歌




曲名は…ええと、なんていったっけか?
























声はすぐそばから聞こえた




窓の外だ




この歌を歌っている人物がどんな人か、単純に興味があったので面白半分で窓を開けた










…が、窓の外を見渡してみるが、誰もいない




だが声は確実にすぐそこから聞こえていた




「………??」




疑問に思いつつも、じっと窓の外に目を凝らし続ける














結局、人らしい人影は見つからず、いるのはせいぜい街の街路樹で羽根を休めている小鳥くらいのものだった




もちろん、その小鳥たちが今聞こえているこの歌を口ずさんでいるとは到底考えにくい




次第に、声の持ち主などどうでもよくなってきて、聞こえてくるその歌声に耳を傾けることにした









歌手にスカウトされた、あの依頼人…確かライアさんと言ったか



あの人ほど上手な訳ではないが、それなりに良い声だと思う




若干低めで、おとなしめな声




声だけ聞くと、歌っている人物はけっこう美人、かつ優しそうなイメージだった



ただ、その歌を口ずさむ声がちょっと寂しそうにも聞こえる




せっかくいい歌、いい声なのだから楽しく歌えばいいのに




もったいない




いつの間にか、歌はぴたりと止んでしまっていた







しばし考えた後、俺はしずかに口笛を吹きはじめる




自分はあまり歌は得意な方ではないから




一緒に歌うことははばかられた
けれど、口笛だったら上手くメロディを乗せられる気がしたから





























結局、実際は下手くそな口笛だったけれど、再び聴こえてきたあの歌声は心なしか楽しそうだったから




それで良しとする






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