Blood of the Vampire

□1.吸血鬼城
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ルーヴァニア大陸の東に位置する小さな島、シルニア島。


その島の中央にガイゼルという田舎町があった。


深い森に覆われた町は外部との交流も少なく、町に住むほとんどの人間が自給自足の毎日を送っていたが、その代わり目立った事件などもなく平凡な日々を過ごしていた。


町の中心部には教会があり、島の管理と町の治安を担っている。


「じゃあ、また明日ね! リデアお姉ちゃん!」


「うん、また明日」


夕日の中、家に帰る子供達を見送ってシスター、リデア・オルブライトは教会の中に戻った。


美しいステンドグラスの前に建つ女神像は、何もかも包み込むような優しい微笑みを浮かべている。


その女神像の前に、一人の青年が立っていた。


年はリデアより少し上だが、横顔にはまだどこか少年のような幼さが残っている。


「……やっぱり森へ行くの? アルバート」


声を掛けると、一瞬空気が揺れた。


無造作なダークブラウンの短髪に獲物を逃さない狩人のような鋭い瞳。


柔らかな栗毛に純粋な眼差しのリデアとはまるで正反対なアルバートは、女神像を見上げたまま静かな声で告げた。


「これ以上町の中を調べても無駄だ。城へ行って来る」


「なら私も……」


「ダメだ。お前はここにいろ」


アルバートはリデアの言葉を遮って椅子の上に置いてあった剣を手にする。


物心ついた頃からずっと肌身離さず持ち歩いているその剣は、幾度も修羅場を潜り抜けて来たアルバートの戦友だ。


「町の外には出るな」


突き放すかのように出口へと向かうアルバートの後姿を見守りながら、リデアは胸の前で両手を合わせて祈りを捧げた。


「女神様……どうかアルバートをお守りください…」

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