文
□雨上がり
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雨上がり
本日降水確率90%
今日は雨で部活が潰れたのではやく帰って読みかけの本を読もう。
そう決めて急ぎ足で玄関に向かう。
玄関で靴を履き替え外にでようとしたら下駄箱に寄りかかっている鬼道が目に入った。
「あれ、鬼道じゃん?傘忘れたの?」
「いや、春菜に貸した。」
鬼道の話によると音無が傘を忘れて困っている所に偶然遭遇し、自分は傘を二本持っていると嘘をつき貸したらしい。
「で、鬼道はどうするの?」
「弱くなったら濡れて帰るつもりだ。」
今日は降水確率90%のうえに強い雨雲が接近していてこのまま待っていたら弱まるどころか更に強くなるだろう。
こんな冬間近の日に濡れて帰ったらいくら鬼道でも風邪を引きそうだと思い、俺は持っていた藍色の傘を差し出した。
「鬼道さえよかったら…、俺の傘に入る?」
「いいのか?」
「鬼道が風邪引いたらやだもん。」
「悪いな、じゃあ頼む。」
ーーーーー
雨がまた強くなった。
身長的に俺が傘を持っているので鬼道の肩が濡れないように気を配る。
「土門、もっとこっちに来い。」
男同士で相合い傘なんて気持ち悪いかなぁ〜なんて思い少し距離をとっていたら、鬼道に腰を抱かれ近くに引き寄せられる。
「きっ…鬼道っ!?」
驚いて鬼道を見ると頬が少し赤くなっていた。
つられて俺も赤くなってしまう。
「肩が濡れている。それに……せっかくの相合い傘なんだ……くっつきたいじゃないか…。」
一気に体温が上昇して血が沸き立つような感覚に陥る。
心臓がうるさいくらい収縮し、隣の鬼道に聞こえていないかと心配になる。
「鬼道…。」
自分からもくっつこうかなと思い足に力をいれると次第に雨の音が遠くなった。
「あっ、止んだ…。」
「あぁ…。」
傘をたたみ空を見上げる。
あんなに暗かった空が嘘のように青空に変わっていた。
さっきまでは近かった鬼道の体温が離れて寂しい。
なんて考えていたら、
「もう少し…ああしていたかったな。」
なんて鬼道が言うもんだからまた心臓が騒ぎ出す。
赤くなった顔を見られないようにもう一度空を仰ぐと、大きな七色のアーチが空に架かっていた。
「鬼道!虹っ!!」
俺がそう言うと鬼道も空を見上げた。
「あぁ、綺麗だな。」
「ねぇ、鬼道。」
「なんだ?」
「手、繋がない?」
せめてこの虹が消えるまではアナタの体温を感じていたいと思った。
end