□最果て
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この先には何があるのだろう――




















何となくバスに乗り込んだ。

行き先は分からない。


乗客はまばらで時がたつに連れ一人、また一人と減っていく。




一番後ろの席に座った俺達に会話はない。

気まずい訳ではなく言葉が必要なかった。


ただ左側に感じる土門の体温が、シートの上でこっそり重ねた手と手が全てを教えてくれた。













だんだん都会の街並みは消え、夏特有の濃い緑が増えていく。

遠くに見える山をぼんやり眺めながら俺は思った。
この行く宛のない小さな旅はまるで俺達のようだと。

どこに行き着くのか、どれだけ時間がかかるのか、まったく何も分からない旅。


でも不思議と何も怖くなかった。














しばらくたって緑が橙に変わる。

開けた視界に夕焼けを溶かした海。海が全てを飲み込んでいく。








「どこに行くんでしょうね?」


「さあな。」





今日初めて言葉を交わした。

土門の声も俺の声もさざ波が攫っていく。

海に全てを吸い込まれる。










重ねた手を強く握った。

「だが、何処に行ったとしても絶対一緒だ。」


「はい。」




夕日が照らす車内。

手も瞳も海も全て一色だった。















行き先は分からない。

だけど暗い海底だって
雲より高い空だって
地の果てだって


繋いだ手は離さないから――












end
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(かけおち=愛の逃避行)




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